2018年7月18日水曜日

心の中に「悪魔の要塞」が造られてしまうのですか?

 私の教会はよくこんなことを言ってましたね。
「心をよく見張なさい。御言葉で武装しなさい。でないと悪魔が、あなたの心に要塞を築いてしまうから」

 ボケッとしていると、悪魔が心に入ってきて、「悪魔の要塞」をこしらえて、好き勝手にしてしまうそうです。結果、私は罪を犯して、堕落してしまうとか。そうなったら神を信じていても地獄行きなのでしょうか。
 怖いですね。恐ろしいですね。酷くなると『エクソシスト』の女の子みたいに、天井を這ってしまうのかもしれません。そうなったらついでに天井の拭き掃除でもしようかと思いますが。

 聖霊派教会に通ったことがある方なら、「悪魔の要塞」なる話を聞いたことがあると思います。
 心の中は戦場になっていて、「神の側」と「悪魔の側」が対立していて、どちらかが優勢になったり劣勢になったりしている。人間はその結果を受けて「良く」なったり、「悪く」なったりする。
 ジョイス・マイヤーさんの『思考という名の戦場』の影響が、少なからずありそうな話です。

 この話を真に受けると、なかなか大変なことになります。
 とにかく24時間、心を見張っていなければなりませんから。
 でも生きていれば、その時その時でいろいろな「思い」や「考え」が浮かんでくるでしょう。それらをいちいち取り上げて、これは神のものか、それとも悪魔のものか、あるいは自分のものか、と吟味しなければなりませんが、そんなこと本当にできるのですか?

 たとえばある時、「Aさんに対して腹が立った」としましょう。この「怒り」に、どう対処すべきでしょうか。
「これはAさんを戒めなさい、という神様からのメッセージなのだろうか」
「ここでAさんに対して怒ったら、悪魔の思う壺なのだろか」
「単に私自身が(人間的な思いで)腹を立てているだけなのだろうか」

 そんなこといちいち考えていられるでしょうか。それ一つだけならまだしも、浮かんでくる思考全部に対してそういうプロセスを施すなんて、現実にできるのでしょうか。できないと思いますが。あるいはできたとしても、自分のことだけで精一杯になってしまうのではないでしょうか。

 知り合いの1人は、この「悪魔の侵入」を意識するあまり、絶えず「悪魔よ退け。イエスの名によって悪魔よ退け」と呟いていたそうです。職場でも自宅でもずっとです。そうせずにいられないくらい、強迫的になっていたのです。哀れとしか言いようがありません。


 この「悪魔の要塞」あるいは「悪魔との絶えざる戦い」という考え方には、一つ合理的な疑問があります。
 こういう疑問です。

「悪魔の要塞」が原因で罪を犯すなら、そもそも人間は悪くないのでは?

 仮に「悪魔の侵入」を許してしまったとして、それを人間の側の「落ち度」と仮定しましょう。でもその結果として心の中に「悪魔の要塞」ができてしまい、そのせいで罪を犯さずにいられなくなったのだとしたら、それは言わば「操られている」状態なので、人間の「罪」ではありません。悪魔の罪です。「悪魔の要塞」がそれほど抗いがたい影響を及ぼすなら、もはや人間の責任ではないわけです。「思考」を支配されてしまっているのですから。

 これがどういうことか、わかります。
 つまり「性善説」です。人間はそもそも悪くない。「悪魔」の影響で、罪を犯さずにいられなくなってしまう。だから「悪魔」がいなければ、人間は罪とは無縁の存在なのだ、という。

 でも罪って、人間が自ら犯すものではありませんか?

 ヤコブの手紙1章15節はこう言っています。
欲がはらんで罪を生み、罪が熟して死を生み出す。

エレミヤ書17章9節はこうです。
人の心は何よりも陰険で、それは直らない

 聖書は全体的に、人間を「性悪説」としてとらえていると私は思うんですけどね。「原罪」という考え方もありますし。

☆ ☆ ☆

 心の中にできる「悪魔の要塞」という考え方は、そういう人間の悪いところを正当化しようとする、下手な試みのようにも思えます。
 たとえば問題を起こした牧師が、「悪魔の策略にハマってあんなことをしてしまった。でもあれは本意じゃなかった」とか言います。
 あるいは身内が問題を起こしてしまった時、「あいつは心を守る訓練がまだできていなかった。未熟さゆえだから、見逃すべきだ」とか言います。
 その問題で被害に遭った人のことなんて、完全に無視です。自分たちは悪くないわけですから、ロクに謝罪もしません。

 つまり大胆にも「悪魔」を利用しているわけです。そして「神」をも利用しているわけですから、もう怖いものなしです。
 そういう教会で、まともな信仰生活が送れると思いますか?
 身に覚えのある方には、そのあたりをよくよく考えてみることをお勧めします。

2018年7月16日月曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第93話

これまでのあらすじ
「50時間の祈り」のデモンストレーションにて、キマジメくんのチームが「霊的礼拝」を捧げている。しかしメガネ兄弟の強引な選曲変更をきっかけに、キマジメくんはカホンのリズムを崩してしまう。以降、礼拝に戻れず、時間だけが過ぎていく。(前回の話はこちら
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 永遠とも思える時間が過ぎた。
 キマジメくんは顔を上げることができず、ひたすら自分の両手を見ていた。
 みんな自分を見ているだろうか。カホンに座っているのにまったく叩かず、舞台にいるのにまったく何もしていない自分を、みんな奇異の目で見ているのだろうか。あるいはカホンを叩けると思ったけれどやはり叩けなかった、哀れな素人だと嘲笑しているのだろうか。
 胃のあたりがキリキリ痛んだ。早く終わってほしい。そしてまた会衆席に戻って、カーペットの上でいいから横になりたい。
 あるいは今すぐ、舞台を降りてしまおうか。何もしていないのだから、構わないのではないか・・・。
 しかし礼拝途中で舞台を降りてしまったら、タタカイ兄弟たちに合わす顔がないとキマジメくんは思った。もうすでに合わす顔はないのだけれど。

 唐突にギターの音が小さくなり、旗が動きを止めた。タタカイ兄弟が最後の祈りを唱え、それで礼拝は終わった。
 キマジメくんはようやく顔を上げた。ずっと俯いていたから、首の筋肉が硬直してしまって、二度と顔が上がらないのではないかと思った。しかし予想に反して顔はすんなり上がった。
 すでに次のチームが舞台に立っており、タタカイ兄弟のギターが鳴り止むとほとんど同時に、別のギタリストが演奏を始めた。
 ついに解放されたキマジメくんは、立ち上がってふらふらと舞台袖に向かって歩いた。その間、誰の顔も見なかった。このまま会衆席の一番隅に行って、タオルケットにくるまって、寝てしまおう。キマジメくんはそれだけを願った。しかし、いつの間にか近づいてきたタタカイ兄弟に背中を触られた。
「キマジメ兄弟、大丈夫ですか」
「すみませんでした、タタカイ兄弟」
 キマジメくんは早口でそれだけ言うと、速足で舞台袖に入り、まっすぐ出口に向かった。誰とも話したくなかった。
 そして会衆席に続くドアの前まで来た。このドアさえ開ければ。しかしそのドアが、勝手に開いた。
  そこに一番見たくない顔があった。溝田牧師の顔だった。眉間に皺を寄せ、明らかに不機嫌だった。
「タタカイ兄弟のチーム、ちょっと全員集まって。牧師室に」

 2分後、キマジメくんは牧師室のソファの一番隅に、小さくなって座っていた。
 隣がルツ姉妹で、そのまた隣がメガネ兄弟、一番むこうがタタカイ兄弟という並びだ。
 反対側のソファでは、溝田牧師が足を組み、ふんぞり返っている。つま先で、テーブルをトントン蹴っている。
「君たちの礼拝、途中でずいぶん混乱していたね。訳を聞かせてもらおうか」
 溝田牧師が4人を順に眺めながら言った。
 真っ先に口を開いたのはメガネ兄弟だった。「先生、あれは、リーダーの霊的鈍感さが原因です!」
「ちょっと待って、メガネ兄弟」溝田牧師がそれを片手で制した。「まずはリーダーのタタカイ兄弟から聞こうか。何事にも秩序があるんだよ。主は、秩序を重んじられる」
 メガネ兄弟は黙って引き下がった。さすがに牧師には逆らえないようだ。
 タタカイ兄弟は答えあぐねているようだった。あの事態をどう説明すべきか思案しているのが、キマジメくんにはわかった。
 やや沈黙があってから、タタカイ兄弟が言った。
「礼拝を崩してしまって、すみませんでした。リーダーである僕の責任です」
「何があったか説明してもらおうか」と牧師。「謝罪はいいから」
 やはりごまかせないと判断したのだろう。タタカイ兄弟は意を決したように話しはじめた。
「自分が事前に賛美を選曲していましたが、礼拝直前になって、メガネ兄弟が変えたいと言ってきたんです。しかしキマジメ兄弟がまだカホンに慣れていなかったので、急には変えられないと思いました。それで却下しました。礼拝が崩れてしまうのを避けたかったからです。しかし、ご覧になったと思いますが、メガネ兄弟が礼拝中に、勝手に別の賛美を歌い始めたのです。それでキマジメ兄弟が混乱して・・・」
「勝手じゃありません!」メガネ兄弟が興奮して口を挟んだ。「主に示されたんです! あの選曲ではダメだと! そうタタカイ兄弟に言ったのに、タタカイ兄弟が無視したのが悪いんです!」
ちょっと静かにしなさい、メガネ兄弟!
 溝田牧師が、メガネ兄弟の声量をはるかに上回るボリュームで叫んだ。あまりに大きな声だったので、4人ともソファから10センチは飛び上がった。メガネ兄弟は「はい」と言ったらしかったが、キマジメくんには「ひぃ」という喘ぎ声にしか聞こえなかった。
「リーダーが話すのを遮るんじゃない!」牧師はまた大声で言う。「秩序を守れと言っているだろう! 同じことを言わせるな!
 メガネ兄弟は、今度こそ「はい」と返事をした。メガネを直す振りをしながら目を拭ったのを、キマジメくんは目撃した。おそらく涙が出てしまったのだろう。
  溝田牧師はコップの水をグイと飲んで、ふうと息をついた。その一挙手一投足を、4人はじっと見つめていた。次に何を言われるのだろう。自分たちはここから無事に出られるのだろうか。キマジメくんは絶望的な心境でそんなことを考えた。
「まあ、タタカイ兄弟から聞くまでもなく、そういうことだろうと思っていたよ」牧師は冷静な声で言った。「言葉がなくても、霊でわかるんだよ
 じゃあなんで説明を求めたんですか、とキマジメくんは言いたくなった。しかし、当然ながら言えない。

 溝田牧師は続ける。
「まあ、これが礼拝の難しいところだ。事前の選曲や準備も大切だけれど、神様は生きて働いておられるから。今というタイミングで、適切に応答しなければならない時もある。メガネ兄弟はそれを敏感に感じ取ったのだろう。それは『執り成し手』として必要な資質でもある」
 メガネ兄弟が急に顔を上げた。風向きが良くなったと思ったのだろう。目が輝いている。
「でも同時に大切なのは、」と牧師は続ける。「リーダーの権威に従うことだ。そしてこのチームのリーダーはタタカイ兄弟なのだから、君たちはタタカイ兄弟の決定に従う必要がある。それが、主の秩序というものだよ。秩序に逆らったら祝福されない。そのことはよく覚えておきなさい。特にメガネ兄弟は」
 またメガネ兄弟が俯いた。つくづくわかりやすい反応だなとキマジメくんは思った。
「その上で言うけれど、」と牧師。「タタカイ兄弟は、もうちょっと臨機応変さを持ってリーダーシップを取るべきだね。せっかく執り成し手が重要な情報を教えてくれたのだから、その霊の流れを敏感にキャッチして、礼拝に取り入れないと、結局のところ祝福を逃してしまうことになるからだ。いいね?」
 しかしタタカイ兄弟は、その言葉には納得しかねたようだった。
「先生、そんなに重要なことなら、なぜ主は事前に教えて下さらないのですか? 僕たちは何日も前から選曲していたんですよ? 練習だってしてきました。なのになぜ礼拝直前になって、それを変更しろだなんて、主が言われるのでしょうか?」
 その言葉を聞きながら、牧師の顔つきが見る見るうちに変わっていく。眉間に皺が寄り、般若のような恐ろしい形相になっていく。でも色は白でなくて赤だ。隣でルツ姉妹が息をのむのがキマジメくんにははっきりわかった。そんなこと言わないで、とルツ姉妹が心の中で懇願しているのが、キマジメくんには聞こえるようだった。(続く)

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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
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