2019年3月21日木曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第110話

これまでのあらすじ
心に「悪魔の要塞」ができていると指摘されたキマジメくん。救いを求めて教会に来たが、カンカク姉妹の言葉で余計に混乱する羽目に。同じころ祈りにきたルツ姉妹と会堂で一緒になるが、そこにタイミング悪くメガネ兄弟も現れ、あらぬ誤解を受けてしまう。キマジメくんの受難は続く(受難週が近いこととは関係ありません 笑)。(前回の話はこちら
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「いえ、違うんです、これは、」とルツ姉妹がすかさず声を上げたが、メガネ兄弟は右手を挙げて、それを制した。「おっと、言い訳はいけませんよ、ルツ姉妹」
「言い訳なんかじゃ、」
「ルツ姉妹!」メガネ兄弟が声を荒げた。その瞬間ルツ姉妹の体がビクッと震えたのを、キマジメくんは視界の端でとらえた。
「いいから聞きなさい」とメガネ兄弟。命令口調だ。もうリーダー気取りなのか、とキマジメくんは愕然とした。
「キマジメ兄弟もよく聞いて下さい」メガネ兄弟はメガネをクイッと上げて続けた。「何事も結果が全てなのですよ。結果が。わかりますか? どういう経緯があるか知りませんが、こうして若い男女が二人きりで聖堂にいる、この状況が、この結果が、大きな問題なのです!」
「なぜですか?」
 ルツ姉妹も厳しい口調だ。見ると目に涙をためている。怒っているのかショックなのか、よくわからない。両方かもしれない。
「なぜも何もありませんよ」とメガネ兄弟。「わかりきったことです。若い男女で二人きりにならないよう、溝田先生から再三言われているではありませんか。それはなぜですか? 汚らわしい誘惑にかられて、罪を犯さないためです!」
「でもこれは、」
「だから、言い訳するなと言っているでしょう!」またしても、ルツ姉妹の言葉をメガネ兄弟が遮った。
「繰り返しますが、大事なのは結果なんですよ。そして結果はこれです!」
 そして両手を広げて、ルツ姉妹とキマジメくんを指さす。
「誤解ですよ」
 少し間が空いたので、キマジメくんが口を挟んだ。「ルツ姉妹は今きたばかりです。自分は聖書を取って帰るところでした。一緒にいたんじゃありません」
「はっ!」メガネ兄弟は一瞬笑顔を見せた。しかしすぐに消えた。「そういうのを言い訳と言うんですよ、キマジメ兄弟。おとなしい振りして、やることはやりますねぇ君は。まったく油断ならない」
「でも本当なんです!」今度はルツ姉妹が叫んだ。今にも涙がこぼれそうだ。端正な顔を真っ赤にしている。
「それが本当なら、ルツ姉妹はキマジメ兄弟が出るまで外で待っていれば良かったでしょう。そうすれば二人きりにならずに済んだはずです。そうしなかったのは、何かやましい思いがあったからではありませんか? まったく、このきよい聖堂で、こんな淫らなことが行われるとは……、これは溝田先生に報告しなければなりません」
「そうだとしても、ルツ姉妹は悪くありません」とキマジメくん。「あとから入ったのは自分ですから」
「でもルツ姉妹はそれを拒まなかった。そうですよね?」メガネ兄弟がたたみかける。 「拒むも何も、ただ聖書を取ろうとしただけです」キマジメくんは苛々してきた。「やましい意図なんてありません」
そういう申し開きは主の前でしなさい!」メガネ兄弟も苛々しているようだ。「とにかく二人とも、この場で悔い改めなさい! あなたがたのリーダーとして命じます。悔い改めて、罪の誘惑から離れるのです。でないと『50時間の祈り』など、到底できませんよ」
「そんな……、」ルツ姉妹は言葉を詰まらせた。ついに涙が一筋、頰を流れ落ちた。
「じゃあ、」とキマジメくんは前に一歩出た。「さっき5分くらい、カンカク姉妹と僕が二人きりだったのはどうなるんですか。そっちを先に悔い改めるべきなんじゃないですか?」
「なんですって?」メガネ兄弟のメガネがキラリと光った。「カンカク姉妹とキマジメ兄弟が、一緒に?」
「そうです。5分くらい、二人きりで祈りましたよ」
「それはまた……、」メガネ兄弟は天井を見上げ、何やら呟きながら、何歩か後ずさった。「願ってもないチャ、いや、問題だ……。そう、これは問題だ……。大きな……問題だ」
 ぶつぶつ呟きながら、メガネ兄弟はそのまま振り返って、会堂を出て行ってしまった。
  ルツ姉妹とキマジメくんはまた二人きりになった。二人で顔を見合わせた。だがどちらもなかなか言葉が出てこない。
 とりあえず悔い改めの祈りはしないで済んだらしい。何が起きたのかわからないが、危機は脱したようだった。
「何だったんでしょうね」
  しばらくしてキマジメくんが言った。ルツ姉妹はひきつった笑顔を一瞬見せただけだった。

 そうして教会を出たけれど、キマジメくんに行く当てはなかった。夜まで会堂で祈って過ごそうと考えていた。それがこんなことになるなんて。
 階段を降りたところで、立ち止まった。時計を見ると、まだ午後の3時前。約束の時間まで7時間もある。キマジメくんは途方に暮れた。家に帰って寝ようか、と思った。今なら寝られそうな気もする。
 そのとき、向こうから歩いてくる人影が目に入った。まっすぐ教会に向かってくるようだ。キマジメくんが見ると、その人物もキマジメくんを見た。無言だった。けれど笑顔で手を振ってくれた。そして一歩一歩近づいてくる。
 タタカイ兄弟だった。
  キマジメくんは自然と手を振り返していた。(続く) 

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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は毎週木曜日に更新します(予定)。
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2019年3月14日木曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第109話

これまでのあらすじ
心に「悪魔の要塞」ができていると指摘されたキマジメくん。教会でカンカク姉妹に相談する羽目になるが、悪魔のことなんか気にしなくていいと一蹴される。混乱するキマジメくんをよそに、カンカク姉妹は散々「霊的マウント」をして出て行った。(前回の話はこちら
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 カンカク姉妹の歌とも「異言」ともつかない声が、ドアの向こうからしばらく聞こえてきた。
 キマジメくんは呆然としたまま、壁の時計を眺めていた。動く秒針を目で追いながら、今の会話を思い返す。カンカク姉妹は「悪魔の要塞」のことなど一言も言わなかった。それどころか悪魔は自分のような未熟者など相手にしない、とまで言い切った。悪魔は自分のような未熟者はいつでも攻撃できるのだから、要塞を作るまでもない、というような意味なのだろうか。もしかしたら溝田牧師は、それだけ攻撃されやすい自分の弱さを、「悪魔の要塞ができている」という言葉で表現したのかもしれない。
 気づくともう、カンカク姉妹の声は聞こえなくなっていた。かわりに時計の秒針の音が妙に大きく聞こえた。なにかのカウントダウンのように。
 溝田牧師に相談しなければ、とキマジメくんは思った。もともと教会に来たのはそのためだった。そろそろ立ち上がると、会堂を出た。そして廊下を奥に向かって歩いた。一番奥に、牧師室がある。
 昨日牧師室で起きた一連の騒動が、もうずいぶん前の話に思える。そういえばタタカイ兄弟はその後どうなったのだろう。すでに何かの処分を言い渡されたかもしれない。一昨日の夜、タタカイ兄弟と一緒にカホンの練習をしたのが懐かしい。あのときは、まさかこんなことになるなんて想像もしなかった。
(こんな状態で、本当に「50時間の祈り」に参加できるのだろうか……)
 牧師室の前に着いたが、何の気配も音もなかった。ドアの隙間から漏れる光もない。溝田牧師は誰かと話していることが多いから、いればよく声が聞こえてくる。不在なのだろう、とキマジメくんは思った。
 しかし試しにノックしてみた。そして待った。やはり返事はない。しばらく待ってもう一度ノックしてみた。暗い部屋で静かに祈りに集中している可能性もあるからだ。しかし、うんともすんとも言わない。
 キマジメくんは溜め息をついて会堂に戻ろうとした。そのとき玄関のドアが開くのが見えた。ドアの向こうには、長身長髪のスラッとした影。
 ルツ姉妹だった。
 彼女はこちらを見て一瞬、体をビクッと震わせた。廊下の奥の暗がりに人がいるので、驚いたのだろう。キマジメくんは申し訳ない気持ちになって「あっ」と声を漏らした。ルツ姉妹はドアノブを持ったまましばらく固まっていたが、やがてゆっくり動いた。
「キマジメ兄弟?」
「あ、僕です」
「すみません、驚いちゃって」
「いえ、こちらこそすみません」キマジメくんはゆっくり近づいた。「祈りに来られたんですか?」
「ええ、ちょっと……」
 なんとなく気まずかった。昨日の出来事が思い出されたからだ。あのとき牧師の一挙手一投足に怯えるルツ姉妹を気の毒に思ったけれど、自分もきっと怯えて見えたことだろう。それに二人とも、結局牧師の命令に屈する形で、メガネ兄弟のリーダーとしての「油注ぎ」を祈ってしまったのだ。あれは正直言って屈辱だった。ルツ姉妹も同じように感じたのだろうか。面と向かって聞けることではなかったが。
「あの、キマジメ兄弟も祈りに?」とルツ姉妹が沈黙に耐えられないように言った。
「ああ、僕は、」とキマジメくん。「ちょ、ちょうど終わったところです。誰もいないので、どうぞゆっくり祈って下さい」
 とっさに嘘をついていた。まだ教会に来て10分ほどしか経っていないのに。しかしルツ姉妹と会堂で二人きりになるなんて気まずすぎて考えられなかった(この嘘は罪なのだろうか、と考えると、また「悪魔の要塞」のことが思い出された)。
 自分は何をしているのだろうと思いながら、キマジメくんはルツ姉妹と入れ替わる形で玄関に向かう。そのとき、会堂に聖書を置きっぱなしなのに気づいた。
「すみません、聖書を取ってきます」
「あ、はい」
 そしてルツ姉妹に続いて会堂に入った。なんとなくカンカク姉妹の匂いがして不快だった。聖書を持ってそそくさと出ようとしたとき、またルツ姉妹に声を掛けられた。
「あの、タタカイ兄弟について、何か聞いていますか?」
 キマジメくんは振り返った。「いえ、特に何も。何か聞いたんですか?」
「いえ、私も何も……。やっぱり、チームを抜けることになるのでしょうか?」
「それは、どうなんでしょう……」
 それはキマジメくんが聞きたいくらいだった。タタカイ兄弟が抜けたあとのことなど、とても考えられない。
 ルツ姉妹はまだ何か言いたげだった。言うか言うまいか迷っているのが、唇の動きでわかる。しかし、結局言わないことにしたようだった。
「じゃあ、これで」
 そう言ってキマジメくんが出ようとしたとき、会堂のドアが開いた。なんとメガネ兄弟が立っていた(なんてこった、とキマジメくんは瞬間的に思った)。
 メガネ兄弟はキマジメくんとルツ姉妹を交互にすばやく見て、少し驚いた顔をしたあと、メガネを少し持ち上げた。
「おやおや、これはちょっといけませんねぇ。若い男女が、聖なる会堂で二人きりでいるなんて。罪の匂いがしますよ。いったいどういうことなんですか? あなたがたの新しいリーダーとして、ちょっと看過できない状況なのですが?」
 そう言って、メガネ兄弟は一歩近づいてきた。(続く)

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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は毎週木曜日に更新します(予定)。
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