カルト被害者の回復に必要なもの

2022年9月12日月曜日

カルト問題

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時間

 私がカルト化教会で「長年搾取されてたんだな」とはっきり認識できたのは、教会が解散して何ヶ月か経ってからでした。その間は「何かが間違っていたけれど、何が間違っていたのかよく分からない」状態でした。何が信仰で何が搾取なのか、よく分からなくなっていたのです。それだけ強くマインド・コントロールされていたのかもしれません。


 カルト信者の被害は、カルトを脱会して「はい、終わり」とは行きません。むしろそこから、自分がいかに縛られていたかに気付くプロセスが始まります。おそらく、長く時間のかかるプロセスが。


ネガティブ・ケイパビリティ


 当時は教会解散に関連した様々な事柄(連日の話し合いや事務的な作業、他教会への説明や事業の整理等々)が同時進行していて、毎日混乱状態でした。個人的な(主に信仰面の)思索や反省などは二の次です。日々対応しなければならないことに追われていました。そんな中で私がなんとなく期待していたのは、「この騒動の全てをよく分かっている人物がどこかから現れて、全部スッキリ説明してくれたらいいのに」ということでした。「あなたは今これこれの状態にあります。だからこうしなさい」と。そう明確に指示してくれたらどんなに楽だろう、と思っていました。


 しかしその思考自体が、カルト牧師に依存しきった精神状態だったと振り返って思います。正解をポンと与えてほしい、という他者に依存した精神状態から、抜け出せていなかったのです。


 カルト被害に遭った人に根本的に必要なのは、最近の言葉で言えばネガティブ・ケイパビリティなのだと思います。正解のない、不確実な状態に耐える力のことです。誰かが簡単に与えてくれる「正解」に頼らず、自分で選択し、結果をそのまま引き受ける力のことです。


 私はもともと「正しいことが何なのか知りたい」という「正しさ依存症」のようなところがありました。人生の絶対確実な真理が欲しかったのです(今はそんなものは存在しないと思っていますが)。それをポンと与えて、信じさせてくれたのがカルト牧師でした。それは「正統派キリスト教」という仮面を被っていました。


居場所


 私が幸運だったのは、看護師免許を持っていたことです。脱会した後、すんなり再就職できました(就職に苦労した信徒が沢山いました)。


 一般の職場は私にとって衝撃でした。祈らなくていいし、聖書の話をしなくていいし、神様について考えなくていいし、「導き」とか「恵み」とかの教会用語を使わなくていいのです。気持ちが楽でした。キリスト教と無縁の人たちの中にいて、自分の頭がいかにキリスト教(のカルト寄りの教理)を中心に回っていたか気付かされました。


 真水のプールに塩の塊を浸すと、塩が徐々に溶け出して、いずれは消滅します。私のいわゆる「カルト脳」は、そんなふうにして消えて行ったと思います(完全に消えたかどうかは正直分かりませんけれど)。


まとめ


 カルト化教会を抜けた人の状態はそれぞれです。深く傷ついている人、混乱している人、一見平気そうな人、怒っている人、棄教してさっさと新しいスタートを踏む人、洗脳状態からなかなか抜け出せない人、等々。彼らをサポートするのに「これ」という簡単な方法はありません。あくまで個別的に、時間を掛けて接して、できることを模索していくしかありません。


 今回は「カルト被害者の回復に必要なもの」として「時間」「ネガティブ・ケイパビリティ」「居場所」を挙げました。私個人にとってはどれも絶対に必要なものでしたが、やはり人によって状況は異なると思います。一つの指標、視点として考えていただければと思います。

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