もしも桃太郎がカルト的牧師だったら・前篇

2014年10月25日土曜日

もしもの話

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 昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいて云々、桃から桃太郎が生まれた。そして元気に育った。元服を迎えた頃、桃太郎はおじいさんとおばあさんに言った。

「私は桃から生まれました。神が私を特別に選ばれたということです。だから、私には特別な使命があるのです。その使命を知るために、私は40日40夜、断食して祈りました」

「それで、おまえの使命とやらはわかったのかい」とおばあさん。
「ええ、わかりました」
「何なんだい、それは」とおじいさん。
「はい、『鬼ヶ島』という島に、鬼が住んでいます。奴らは悪魔です。奴らの悪い霊性が、この村にも悪影響を及ぼしています。だから、退治しに行かなければなりません」
「そうなのかい。それで、なんでお前が行かなきゃいけないの」
「これが桃から生まれた私に与えられた、特別な使命なのです。神の御心です」

 という訳で、桃太郎は村中に呼びかけ、献金を募った。鬼ヶ島までの交通費、宿泊費、食費、その他の諸経費が必要だったからだ。おじいさんとおばあさんは昼も夜も村を巡り、愛する我が子の「特別な使命」について訴え続けた。ツテも最大限に利用した。そしてその必要は、どうにか満たされた。
「ハレルヤ、やはり主が導いておられるのです」と桃太郎。「だから必要が満たされたのです。主が道を開かれました」

 そして桃太郎は旅立った。途中、犬に出会った。桃太郎は犬にやさしく言った。
「犬くん、君は神様に愛されているよ。君の今までの人生は、神様に出会うためだったんだよ。犬くん、今、神様が君を呼んでおられるよ。そして君の最高の幸福は、神様に従って生きることなんだ。今、すべてを捨てて、私と一緒に来ないか」
 犬は号泣しながら桃太郎に従った。

 続いて猿に出会った。桃太郎は猿に言った。
「猿くん、君は素晴らしい能力の持ち主だよ。特にそのジャンプ力、誰にもかなわないよ。宇宙まで飛んでいけそうだ。それにその長い腕。そんな長い腕は今まで見たことがない。その腕なら、神様によく用いられるだろう。どうだい、神様に仕える、素晴らしい人生を歩んでみないか」
 猿は狂喜して桃太郎に従った。

 最後に雉に出会った。桃太郎は半ベソで言った。
「雉さん、僕はもうダメだ。僕はずっと神様に一生懸命仕えてきたけれど、もう限界だ。僕のような弱い人間には、もう何もできない。僕は桃から生まれた特別な使命を捨てて、普通の太郎として生きたいよ・・・」
 そう言って号泣する桃太郎を、雉は慰め励ました。そして、桃太郎に付いて行った。

 仲間が揃ったところで、桃太郎は言った。「よし、ここにいるのは、神が特別に選ばれたメンバーだ。鬼を退治するための、神の軍隊だ。だから君たちには神に忠誠を誓い、最後まで勇敢に戦ってほしい。それが君たちに対する神の御心なのだ。わかったらエイエイオーだ」
 3人、「エイ、エイ、オー!」
「よし、じゃあ私は今から山に登って、神の声を聞いてくる。その間、君たちには、ここで準備を済ませてほしい。
 まずは犬くん、鬼ヶ島までの船をチャーターするんだ。ただし、費用はできるだけ抑えるんだ。船頭に足元を見られないよう、強気で行け。非常識なくらいの安値を突き付けて、一歩も引かない態度で臨むんだ。半額程度に下がるまで、決して買うなよ。
 次に猿くん、君には鬼退治の武器を揃えてほしい。刀、斧、弓矢をできる限り揃えるんだ。ただしお金をかけてはいけない。大道芸でもやって稼いでから買うんだ。いいね。
 最後に雉さん、鬼ヶ島までの食事を準備してくれ。ただし食費は抑えるんだ。これは村人たちの尊い献金だから、一円だって無駄にしてはいけない。最小限の費用で、最大限の用意をするんだ。わかったかい」

 それで3人が準備に向かった後、桃太郎は山に登った。途中の旅籠に宿を取ると、おばあさんからもらったキビ団子を一人で全部食べた。それから温泉に浸かり、一眠りして、夕食を取った。満腹になるとまた眠くなったので、フカフカの布団で気持ちよく眠った。(後篇に続く)

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