2014年10月27日月曜日

もしも桃太郎がカルト的牧師だったら・後日談

 さて、鬼ヶ島で「霊的勝利」を治めた桃太郎一行は、出発時と同じ超格安の船で帰途についた。皆疲れも吹き飛んで、意気揚々と、海原を見つめている。
「勝利の凱旋だな」猿が胸を張って言う。「みんな、盛大に出迎えてくれるかな」
「おいしいもの、用意してくれてるかしら」と雉。
「オレ、彼女にプロポーズするんだ・・・」そういえば、犬は死んでいなかった。
「おいおい、みんなバカなこと言ってるんじゃない」桃太郎が釘を刺す。「この勝利は私たちのものではない。主のものだ。だから主にのみ栄光を帰さねばならない。出迎えだの食事だの、そんなものを期待するのは不信仰の現れだぞ」
「え、でもオレたち、村人たちのために戦ったんだぞ。それに霊的覆いだって取り除いたんだろ。だったら、感謝くらいされてもいいんじゃないのか」猿が食い下がる。
「じゃあ何か」桃太郎は猿を睨み付ける。「お前は、感謝されたくて鬼ヶ島に行ったのか? 盛大に出迎えてほしくて戦ったのか?」
「そ、それは・・・」
「違うだろ!」桃太郎が怒鳴りだす。「主のためだろ! その一点に尽きるはずだろ、このバカ猿が! お前など、恥ずかしくて信仰者の風上にも置けん、ここでしっかり悔い改めろ! でないと、鬼ヶ島に送り返すぞ!」
「わ、わかったよ、悪かったよ、桃太郎・・・」猿はしょげて隅の方に縮こまった。
 
 そして、故郷の浜辺が見えてきた。浜辺には、何人かの人影が見える。こっちを見ているようだ。
「あら、やっぱり出迎えに来てくれてるんじゃないかしら」雉が歓喜して言う。
「でも出迎えにしては、人数が少ないような・・・」と犬。
 確かに、人影は数人だ。手を振っている訳でもない。
「実は、皆に言っておくことがある」桃太郎が唐突に言う。「実は鬼ヶ島での圧倒的勝利の後、鬼たちの財宝が、私に与えられたんだ」
「ええっ、なんだって!?」と猿。
「うむ、金銭が絡むことだから、皆には黙っていようと思ったのだが・・・」桃太郎は涙目になっている。「あの勝利の後、祈りの中で、鬼たちの隠し財産のありかを主が示されたのだ。それで行ってみると、確かに金銀財宝が山のように見つかった」
「そ、それで、財宝は今どこに?」と雉。
「うむ、それなんだが、その時たまたま集落の村長に会ってな、少し話しているうち、島の窮乏について知ることになった。その時、主が語られたのだ、この集落に、財宝を全て捧げなさい、と」
「マ、マジすか・・・」と犬。
「もちろん、私は葛藤した。君たちの苦労に報いてやりたいと思ったし、故郷の両親、そして村人たちに恩を返したいとも思ったからだ。しかし、私は主の僕だ。主が語られる通りに行うのが、私の使命なのだ・・・」
「それで、集落に財宝を置いてきた、と?」猿は頭を抱えている。
「その通りだ・・・」桃太郎は跪いて号泣した。「みんなすまない! みんなの苦労に・・・みんなの苦労に・・・、私は報いたいと思ったんだ・・・」
 激しく嗚咽する桃太郎に、犬も猿も雉も、かける言葉がなかった。
 そんな中、ゆっくり、犬が近寄った。「桃太郎、いいんだよ。君はなんにも悪くないよ。神様の言う通りにしただけなんだから。それに、僕らも君のその気持ちだけで十分だよ。もともと、おカネが欲しくてやったことじゃないんだから」
「そうよ、桃太郎」雉も羽でやさしく桃太郎を撫でる。
「ま、オレたち仲間だもんな」と猿も桃太郎の背を軽く叩いた。
「み、みんな・・・」桃太郎はさらに激しく泣いた。
 
 そして、故郷の地に上陸。
 さっそく、おじいさんが言う。「おお、桃太郎や、よく無事に戻った」
「ケガはなかったかい?」とおばあさん。
「はい、みな元気です。おじいさんもおばあさんも元気そうで」
「うむ、ところでな、桃太郎」おじいさんは声をひそめる。「アレの方はどうじゃったんだ」
「アレ、ですか」
「うむ、アレじゃ。鬼たちの財宝じゃ」
 そこへ、大男が割って入ってくる。「おい、桃太郎とやら。鬼の財宝を出してもらおうか」
「あんた誰」桃太郎が言う。
「あん? 誰じゃねーだろ! ここの領主の顔を忘れたとは言わせねーぞ!」
「あ、これはこれは領主様」桃太郎、急いで跪く。「その節は大変お世話になりました」
 領主が言う。「お前の旅費を出してやった時の約束、忘れた訳じゃあるまい」
「はい、しかと覚えております」
「鬼たちの財宝が見つかったら、その半分を俺によこす、って約束だったよなあ」
「え、そういう話だったの?」猿が横やりを入れる。
「はい、その通りでございます」桃太郎が言う。
「で、財宝はどこにあるんだ」
「はあ、実は・・・」
 桃太郎は船上でしたのと同じ話をした。泣きながら、精一杯の感情を込めて。
「集落の方々の・・・その窮乏ときたら凄まじく・・・、今日食べるものさえない、我が子を食べるしかない、そんな状況を目にして・・・、私はたまらず・・・たまらず、財宝を・・・、財宝を、差し出してしまったのです! 人間として、人の子として・・・、いったい、他にどんな方法があったというのでしょうか!?」
 そこまで言われると、領主も黙らざるを得なかった。おじいさんとおばあさんは感動して号泣。犬と猿と雉までもらい泣きしている。
「ま・・・そういう話なら・・・仕方ねえが」領主はおとなしくなった。「いずれにせよ、貸したカネは返してもらうぜ・・・、そのうちな」
「はい、必ず」桃太郎は深々と頭を下げた。
 
 領主が去り、浜辺は静かになった。
「よしっ」桃太郎は立ち上がった。「腹へった。さあ帰ろう」
 そして桃太郎はおじいさんおばあさんと一緒に、家に帰った。
 
 その後、桃太郎がどうなったのか、記録には残っていない。けれど噂によると、牧師になって教会を開いたという。定かでないが。
 彼のことではっきり記録に残っているのは、鬼ヶ島で悪い鬼たちを退治し、村の平和を守り、鬼たちの財宝を貧しい民に分け与えた、ということだけだ。それは今なお、武勇談として語り継がれている。
 
【余談】
 
 鬼ヶ島の一件のあと、猿は単身、鬼ヶ島に渡った。財宝の件が、どうしても気になったからだ。
 というのは、あの勝利の後、桃太郎に財宝を探しに行く余裕などなかったはずだし、それを集落に持って行くとか、全部置いていくとか、どうにも現実的でないのに気づいたからだ。
 猿はあの集落に行って、財宝について、単刀直入に聞いてみた。百人たらずの集落だから、それほど手間取らなかった。
 結果、財宝のことなんて誰も知らないし、見たこともないし、暮らし向きが楽になった、ということもなかった。
 その時になってようやく、財宝などはじめから存在しなかったことに、猿は気づいたのだった。(終わり)

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