もしもかぐや姫がカルト的牧師だったら

2015年1月3日土曜日

もしもの話

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 昔々あるところに、竹取の翁とその妻がいた。
 ある日、翁がいつものように野山に入って竹を取っていると、根元の光る竹を見つけた。不思議に思って切ってみると、中になんと金の十字架を持った女の子が。子供のいない翁は喜んでその子を連れ帰り、妻と一緒に大切に育てることにした。

 かぐや姫と名付けられたその子は3ヶ月で妙齢の美しい娘に成長した。翁は慣習に従って髪結いの儀式を行おうとしたけれど、かぐや姫が難色を示した。「おじい様、髪結いの儀式は汚らわしい偶像崇拝です。やめて下さい」

 という訳で髪結いの儀式は中止となり、代わりにジーザス・セレブレーションという聖会が催された。南蛮渡来の宣教師が大勢招待されて、3日に渡って盛大に行われた。集まった人々はかぐや姫の美しさに圧倒されて、こぞって求婚しはじめた。しかしかぐや姫は喜ぶどころか大いに怒って、「私でなく主を見上げるべきです」と言う。「私は愛するジーザスと一緒にいればそれで満足です。みんなもそういう信仰を持つべきです。あ、でもこれは特別な啓示ですから、霊的に覚醒していない人にはわからなことですね。おかわいそうに」

 同じ頃、かぐや姫は南蛮のファッションデザイナーにスカウトされて、ファッションショーの奉仕を始めた。最新の着物を着て、大勢の観衆の前を歩くのである。「私を通して主が現されれば感謝です」と意気込むかぐや姫。

 ところで翁は先行き長くないのを考え、かぐや姫に結婚を勧めた。貴族からの求婚も絶えず、良家に嫁ぐチャンスがゴロゴロ転がっていた。しかしかぐや姫は翁をたしなめた。「おじい様、結婚は主からの贈り物です。この人と結婚しなさいと神様に言われるまで、私は結婚などできません」

 並みいる貴族たちの求婚をことごとく断るかぐや姫の噂は、やがて帝に耳に届いた。帝も一目でかぐや姫に惚れ込んだ。そして求婚するも、あえなく玉砕。かぐや姫が「帝も農民も主の目には同じ人間。何の違いもありません」と一蹴したからだ。

 けれど帝も黙っていない。翁に圧力をかけ、何としてもかぐや姫の了承を得るようにと脅してきた。それで翁と妻が毎晩泣いて懇願するようになり、さすがのかぐや姫もこれには参った。「ではジーザスとランチに行ってきます。そこでダディ―(注・神様のこと)の思いを窺ってきます」

 それで山に入ったかぐや姫が、1時間ほどで帰ってきた。
「かぐや、どうじゃった、その・・・ラ、ランチとやらは?」と翁。
「はい、ジーザスがサンドイッチとコーヒーでもてなしてくれました」
「それで、ダディ―さんは何とおっしゃるの?」と翁の妻。
「おじい様、おばあ様、落ち着いて聞いて下さい」

 かぐや姫の話はこうだった。もうすぐこの世が終わる。その前にダディ―がかぐや姫を迎えにくる。だからこの地上で結婚などできない。みんなもダディーを信じれば、かぐや姫と一緒に行けるかもしれない、と。

 その話は都中に広まった。心配になった民が大勢かぐや姫の話を聞きに来た。かぐや姫は毎日大勢の聴衆を前にマイク片手にダディ―について語った。「そこの人、腕組みしながら話を聞かないで下さい。ダディに対して失礼です」

 帝は大いに怒った。天のダディ―とやらに、かぐや姫を取られてはならない。迎えに来たら返り討ちにしてくれる。帝はかぐや姫の指定する満月の夜に備えて軍備を整え、陣を敷いた。

 さて、満月の夜である。翁の屋敷の周りは、帝の軍隊とかぐや姫の信者たちとでいっぱいとなった。兵士たちは武器を構え、信者たちは口々に叫ぶ。「かぐや姫、先に天で待っていて下さい! 信仰の短い私はきっとダディに連れて行ってもらえませんから」なんて言う信者もいる。

 満月が上り、夜が更ける。予想に反して静かな夜空である。「皆の者、油断するでない」と兵士たち。「いよいよジーザスが来られる!」と信者たち。
 けれどやがて、東の空が白みはじめた。地平線に光が走り、太陽が顔を出す。満月は次第に消えていく。

 かぐや姫が屋敷から姿を現した。「みなさん、ジーザスから新たな言葉をいただきました。天の準備があるから3日遅れる、とのことです。3日後、ジーザスが迎えに来られます」

 
 という訳で3日後、再び軍隊と信者たちが集結した。けれど夜になり、深夜になり、朝になった。今回も何も起こらなかった。かぐや姫が姿を現した。「また新たな言葉がありました。1週間遅れるそうです」
 けれど1週間後も何も起こらなかった。

 信者の何人かが、翁の家に殺到した。「この世が終わるって言うから、家財を全部売って寄付してしまったんだ。どうしてくれる!」
 対応に困り果てた翁に、かぐや姫は言う。「今回のことは信仰を試すためのダディーからの試練だったのです。私はその試練にパスしたってダディーが言ってくれました。だから何も謝る必要なんかないって、ダディ―が言ってくれました。だから文句がある人は好きに言わせておけばいいんです」

 その一部始終を聞いた帝はあきれ果てて求婚を取り下げた。「ありゃダメだ。とんだ嘘つき女じゃないか」
 対するかぐや姫も負けていない。「ほらやっぱり、帝の愛なんてそんなものなのです。ちょっとの試練ですぐに折れてしまうのですから。結婚は断って正解でした」

 その後、かぐや姫は遠い南国に引っ越した。「ダディーがここで私に何かさせようとしています。私はそれに従うだけです」
 それで南国でもダディ―について人々に語り、信者を増やしていきましたとさ。(終わり)
 

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