昔々あるところに、竹取の翁とその妻がいた。
ある日、翁がいつものように野山に入って竹を取っていると、根元の光る竹を見つけた。不思議に思って切ってみると、中になんと金の十字架を持った女の子が。子供のいない翁は喜んでその子を連れ帰り、妻と一緒に大切に育てることにした。
かぐや姫と名付けられたその子は3ヶ月で妙齢の美しい娘に成長した。翁は慣習に従って髪結いの儀式を行おうとしたけれど、かぐや姫が難色を示した。「おじい様、髪結いの儀式は汚らわしい偶像崇拝です。やめて下さい」
という訳で髪結いの儀式は中止となり、代わりにジーザス・セレブレーションという聖会が催された。南蛮渡来の宣教師が大勢招待されて、3日に渡って盛大に行われた。集まった人々はかぐや姫の美しさに圧倒されて、こぞって求婚しはじめた。しかしかぐや姫は喜ぶどころか大いに怒って、「私でなく主を見上げるべきです」と言う。「私は愛するジーザスと一緒にいればそれで満足です。みんなもそういう信仰を持つべきです。あ、でもこれは特別な啓示ですから、霊的に覚醒していない人にはわからなことですね。おかわいそうに」
同じ頃、かぐや姫は南蛮のファッションデザイナーにスカウトされて、ファッションショーの奉仕を始めた。最新の着物を着て、大勢の観衆の前を歩くのである。「私を通して主が現されれば感謝です」と意気込むかぐや姫。
ところで翁は先行き長くないのを考え、かぐや姫に結婚を勧めた。貴族からの求婚も絶えず、良家に嫁ぐチャンスがゴロゴロ転がっていた。しかしかぐや姫は翁をたしなめた。「おじい様、結婚は主からの贈り物です。この人と結婚しなさいと神様に言われるまで、私は結婚などできません」
並みいる貴族たちの求婚をことごとく断るかぐや姫の噂は、やがて帝に耳に届いた。帝も一目でかぐや姫に惚れ込んだ。そして求婚するも、あえなく玉砕。かぐや姫が「帝も農民も主の目には同じ人間。何の違いもありません」と一蹴したからだ。
けれど帝も黙っていない。翁に圧力をかけ、何としてもかぐや姫の了承を得るようにと脅してきた。それで翁と妻が毎晩泣いて懇願するようになり、さすがのかぐや姫もこれには参った。「ではジーザスとランチに行ってきます。そこでダディ―(注・神様のこと)の思いを窺ってきます」
それで山に入ったかぐや姫が、1時間ほどで帰ってきた。
「かぐや、どうじゃった、その・・・ラ、ランチとやらは?」と翁。
「はい、ジーザスがサンドイッチとコーヒーでもてなしてくれました」
「それで、ダディ―さんは何とおっしゃるの?」と翁の妻。
「おじい様、おばあ様、落ち着いて聞いて下さい」
かぐや姫の話はこうだった。もうすぐこの世が終わる。その前にダディ―がかぐや姫を迎えにくる。だからこの地上で結婚などできない。みんなもダディーを信じれば、かぐや姫と一緒に行けるかもしれない、と。
その話は都中に広まった。心配になった民が大勢かぐや姫の話を聞きに来た。かぐや姫は毎日大勢の聴衆を前にマイク片手にダディ―について語った。「そこの人、腕組みしながら話を聞かないで下さい。ダディに対して失礼です」
帝は大いに怒った。天のダディ―とやらに、かぐや姫を取られてはならない。迎えに来たら返り討ちにしてくれる。帝はかぐや姫の指定する満月の夜に備えて軍備を整え、陣を敷いた。
さて、満月の夜である。翁の屋敷の周りは、帝の軍隊とかぐや姫の信者たちとでいっぱいとなった。兵士たちは武器を構え、信者たちは口々に叫ぶ。「かぐや姫、先に天で待っていて下さい! 信仰の短い私はきっとダディに連れて行ってもらえませんから」なんて言う信者もいる。
満月が上り、夜が更ける。予想に反して静かな夜空である。「皆の者、油断するでない」と兵士たち。「いよいよジーザスが来られる!」と信者たち。
けれどやがて、東の空が白みはじめた。地平線に光が走り、太陽が顔を出す。満月は次第に消えていく。
かぐや姫が屋敷から姿を現した。「みなさん、ジーザスから新たな言葉をいただきました。天の準備があるから3日遅れる、とのことです。3日後、ジーザスが迎えに来られます」
という訳で3日後、再び軍隊と信者たちが集結した。けれど夜になり、深夜になり、朝になった。今回も何も起こらなかった。かぐや姫が姿を現した。「また新たな言葉がありました。1週間遅れるそうです」
けれど1週間後も何も起こらなかった。
信者の何人かが、翁の家に殺到した。「この世が終わるって言うから、家財を全部売って寄付してしまったんだ。どうしてくれる!」
対応に困り果てた翁に、かぐや姫は言う。「今回のことは信仰を試すためのダディーからの試練だったのです。私はその試練にパスしたってダディーが言ってくれました。だから何も謝る必要なんかないって、ダディ―が言ってくれました。だから文句がある人は好きに言わせておけばいいんです」
その一部始終を聞いた帝はあきれ果てて求婚を取り下げた。「ありゃダメだ。とんだ嘘つき女じゃないか」
対するかぐや姫も負けていない。「ほらやっぱり、帝の愛なんてそんなものなのです。ちょっとの試練ですぐに折れてしまうのですから。結婚は断って正解でした」
その後、かぐや姫は遠い南国に引っ越した。「ダディーがここで私に何かさせようとしています。私はそれに従うだけです」
それで南国でもダディ―について人々に語り、信者を増やしていきましたとさ。(終わり)
婆原彰晃のかぐや姫話は本当に笑えました。ありがとうございます。
返信削除しいて付け加えてほしいことをあげるのであれば、「祈っていると金や天使の羽やダイヤモンドが降ってくるのです!」という場面ですかね(笑)。
しかし(天使の羽はともかくとしても)婆原教は祈っていると金やダイヤモンドが降ってくるという、非常にありがたいお宗教様ということですので、沖縄で開業したジーザスカフェでなにも料金をとる必要はないのではありませんかね?必要な経費の全ては降ってきた金やダイヤモンドを換金して支払いにあてればいいのではないでしょうか。
無料では申し訳ないからどうしてもいくばくかの金を払いたいという人には、「ご奉納」と印刷した紙袋を渡して、その人はその袋に現金を入れて、店の片隅の献金箱に勝手に入れていくようにすればいいと思うのですよ。(申告するときは「奉斎料」として申告することになるのかもしれませんが。)
個人的には天使の羽などというおかしなものを降らせてばかりいる神様なんて信用できませんね。金やダイヤモンドも鑑定してから換金することになりますので、手間も暇もかかるのでノーサンキューですよ。
どうせ降らせるなら一万円札を大量に増えらせるべきなのだと思いませんかね?祈れば最低でも一万円札が十枚以上は絶対確実に降ってくるというのであれば、一か月毎日祈っているだけで月に三百万以上がもうかるわけではありませんか。もし一万円札を最低でも十枚以上は降らせてくれるというのであれば、私も婆原教に喜んで入信しますとも!
わかる人にはよくわかるお話ですね。面白かったです。
返信削除匿名様
削除コメントありがとうございます。
小ネタ満載なのですが、わかっていただけたようで嬉しいです。
決して楽しい話ではありませんが(笑)。