カルト化教会での長い日々が終わり、心身ともに自由になり、色々落ち着いて、使えるお金と時間も増えて、「たまにはちょっと贅沢してみよう」といざ高級レストランなんかに行こうと思っても、マナーや決まりが分からない。ワインの選び方も分からない。実はさほど難しくないけれど、「いい歳してそんなことも知らない」劣等感が、そういった場所から足を遠のかせる。今までそういう経験をしてこなかったのだ。これもカルト化教会の二次被害の一つだと思う。
厳格に育てられた宗教2世も同じような戸惑いを体験するかもしれない。幼い頃からずっと自由がなく、大人になってようやく解放され、自由に生活できるようになっても、同年代の若者たちが経験してきたことがすっぽり抜け落ちてしまっているから。アマゾネスの島で生まれ育ったダイアナ(ワンダーウーマン)が1940年代のロンドンにやって来て、右も左も分からず、当時のいわゆる「女性らしい振る舞い」が全くできなかったのに似ている。
「多くの人が経験することを経験してこなかったからって、別に何も困らない」と言う人もいるだろう。が、自分が困らないから他のみんなも困らない、とはならない。例えば一般企業に就職したら、(本来そうあるべきでないが)まだまだ業務外の付き合いが労働環境を左右するし、昇進にも影響する。付き合いの悪い部下を評価しない上司はまだまだ多い。
映画『シェイム』の中年主人公は性依存症で、起きている時間は(仕事中も何も関係なく)そのことしか頭にないくらいの重症だ。そんな彼があるキッカケで「ちゃんとした社会生活を送ろう」と決意する。しかし「普通のデート」をして、お高いレストランに入っても、何をどう選べばいいか分からない。店員の使う用語も分からない。中年になるまでそういう経験をしてこなかったからだ。レストランでドキマギする彼の姿に、カルト脱会者(自分を含む)の戸惑いや気後れを想起した。
カルト脱会者向けの「社会復帰プログラム」があったら良いかもしれない。高級レストランとかライブとかクラブとか、そういう未経験の場所に案内して、色々教えてくれるサービスだ(あったら自分が利用したい)。
似た話で、教会で『君は愛されるため生まれた』等の自己肯定感上げ上げソングを歌って育った自己肯定感MAXの子が、一般の大学に進学して、「みんなと同じ扱いをされる」という当たり前の事実に直面して、ショックを受けることがある。まさにハロー、ワールド。
キリスト教会で、現実とあまりに乖離した育ち方をしてしまうと、本人が大人になってから困る。社会と一切かかわらないで生きられる人は、そう多くないのだから。教会の指導者や親たちには、その点をよく考えてほしいと思う。