メンタリスト
今回はちょっと、アメリカのテレビドラマ『メンタリスト』の紹介から始めさせて下さい。
『メンタリスト』は2009年から2015年まで、計7シーズン続いた人気ドラマです。人間心理を巧みに利用して犯人を追い詰める、異色の刑事ドラマですね。主人公パトリック・ジェーンのさわやかな笑顔も魅力の一つです。
そのジェーンですが、以前はニセ霊能者をしていた設定です。いわゆる詐欺師ですね。でもある時、テレビで連続殺人鬼レッド・ジョンを小馬鹿にしたことで、妻子を殺されてしまいます。以来、復讐を胸に、CBI捜査局で働くようになりました。
だからドラマは毎回の事件と同時に、殺人鬼レッド・ジョンを追う形で進んで行きます。
このドラマの見せどころの一つは、毎回ジェーンが見せる鮮やかな「心理術」です。嘘を見破り、秘密を暴き、あっと驚く方法で犯人を炙り出すのです。これが見ていると病みつきになります。
でもこのドラマのテーマは、私が思うに「心理術」でなく「復讐」です。
妻子を殺されたジェーンは、その犯人を捕まえて殺すためなら何でもやります。家宅侵入から脱獄の手助けまで、数々の法を破ります。さわやかな笑顔の裏で、心は「復讐の鬼」なのですね。
それを象徴するように、ドラマ全編に渡って、様々な「復讐」が描かれます。様々な登場人物たちが、それぞれ復讐を果たしていくのですね。でもそこには「復讐したって何にもならない」みたいな綺麗ごとは出てきません。復讐した結果がどうなろうが、報われようが報われまいが、彼らには関係ないのです。復讐しなければならない、どうしてもしなければならない。そのシンプルな原理だけがあります。
さて終盤、ジェーンは望み通りレッド・ジョンを葬るのですが、それ以降時々、こんな言葉を掛けられます。
You deserve to be happy.
直訳すると「あなたは幸せになるに値する」です。さんざん苦しんできたんだから、幸せになる権利があるんだ、みたいな意味ですね。私はこの言葉が一番心に残りました。
ちなみに『メンタリスト』は、Amazonプライム会員なら全シーズン無料で視聴できます(2018年5月現在)。
幸せに値する
「幸せに値する」というのは、なかなか深い言葉じゃないでしょうか。
でもよく考えると、ジェーンはさんざん苦しんだから、幸せに「値した」のでしょうか。だとしたら、苦しむことが幸せの条件になってしまいます。苦しまなきゃ幸せになれないのでしょうか。
キリスト教的には、人は誰でも神に愛されていますから、その意味で誰もが幸せに値しているはずです。必ずしも「愛」と「幸せ」は直結しないかもしれませんが、少なくとも悪い目には遭わない気がします。
ただ現実を見てみますと、クリスチャンだから必ず幸せになれる、とは言えません。むしろカルトで苦しんだり、カルトでなくても教会のなんやかやで面倒な目に遭っていたりします。あるいは何かの犯罪被害に遭ったり、DV被害に遭ったり、心身の健康を崩したりで、いろいろ大変なことになっている人が少なくありません。
さて、私たちは幸せに値するのでしょうか。しないのでしょうか。
私は、全ての人が幸せに値すると思っています。と言うか、そう願っています。でなければ、何のために生きているのでしょう。わざわざ苦しむため「だけ」に生きているなら、そこに何の意味がありますか。「天国」で良い思いをするためですか? そう考える人は、主の祈りの一節「御国がきますように」を無視していませんか。
聖書の言葉ではありませんが、「神は自ら助くる者を助く」というのがあります。
「助け」は自動的にやって来ない、自分でいろいろ考えたり動いたりしなければ何も起こらない、という意味ですね。私個人はこれに同意しています。
でもこういうことを言うと、「自分の力で頑張ってもー」と言い出す人たちがいます。あくまで「神に依り頼め」というわけです。でもそういう人たちだって、生活のために働いたり家事をしたりしているはずですが。
たとえばDV被害に遭っている人は、いくら祈ったところで救われません。逃げるとか訴えるとか、何かのアクションが必要です。被害者に早急に必要なのは、聖書の言葉ではありません(むしろ聖書の言葉が邪魔になることがあります)。
あなたは幸せに値します。今は幸せでないかもしれませんし、いろいろ行動が必要かもしれません。自分を責めているかもしれません。でも、幸せに値します。
You deserve to be happy!
私もメンタリスト、Law & Order、ER などのドラマが好きでよく見ました。多人種・多文化に基づくストーリーやテーマの多様性とタブーがあまり無い率直さに魅力がありますね。
返信削除その中で、登場人物に福音派キリスト教徒、アーミッシュ、カルト宗教信者などが出てくるエピソードが幾つかあったのも興味深かったです。一方的に断罪したり、宗教狂い・狂信的な人間としてステレオタイプに描くのではなく、その人の価値観や人生の描写がリアルで、社会の有り様までもを問いかけるような脚本に深みがあり、日本のドラマとはかなり違なあという印象を持っています。
ありがとうございます。
削除おっしゃる通り、アメリカ製のドラマは、近年どんどんレベルを上げているように思います。映像のクオリティはもちろん、タブー視されやすいテーマも平気で扱い、社会問題に切り込む鋭さがありますよね。
メンタリストにも「ビジュアライズ」というカルト教団が登場しましたが、非常にリアルに描かれていると思いました。やはりアメリカでもカルトは大きな問題になっているのでしょうね。
キリスト教原理主義を問題として取り上げたドラマや映画も、最近増えてきています。それだけ原理主義の台頭に、危機感があるのかもしれません。