ある牧師の(えげつない)「イメージ戦略」を紹介してみる

2016年6月10日金曜日

雑記

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 今回は、ある数枚の「写真」について書いてみたい。話は2011年3月の、東日本大震災の頃にさかのぼる。

 震災発生2日後の3月13日、ある牧師が、数名の信徒とともに東北の被災地に入った。そして支援活動を始めた。被災地のために何かしたい、困っている同胞を助けたい、という思いがあったんだと思う。その頃は。

 はじめの1ヶ月くらいは、物資の輸送や炊き出しに明け暮れた。関東で物資を調達し、被災地で配り、炊き出しを何度かして、全部尽きたら一旦帰る。そしてまた物資を調達して、被災地に入るというのを何度も繰り返した。
 1ヶ月くらい経つとそういうニーズも落ち着いて、今度は個人宅の瓦礫撤去とか、畑の塩抜きとかの作業をした。あれはやってもやっても終わらない気がしたけれど、それも徐々に落ち着いていった。
 そして3ヶ月くらい経つと、今度は復興応援コンサートとか子供フェスティバルとか、そういう被災者を対象にしたイベントを開催するようになった。衣食住のニーズが満たされつつあったから(もちろん土地によって状況違ったろうけれど)、これからは傷ついた人々の心をケアしていこう、みたいな方向性になった

 そこまでは「被災地支援」と言えそうだった。でも徐々に変わっていった。次は活動中にできたコネを使って、新たな事業展開を始めた。震災で親を亡くした子供たちの施設を建てようとか、放射能で土が汚染されてもいいように水耕栽培を始めようとか、情報発信できるように独自の放送局を作ろうとか、被災地支援と関係あるようなないような諸活動が計画された。その牧師に言わせれば、「すべて繋がっている」らしかったけれど。

 さて、それらの事業の顛末はべつの機会にするとして、上記の活動は、逐一写真や動画に収められていた。牧師はスタッフらに事あるごとに写真を撮るよう命じていた。それも詳細に命じていた。どんなタイミングで、どんなアングルで、誰と誰をフレームに入れて、どんな背景で、どんな表情の時に、など。それで大量に撮られた写真を後から見返して、いくつか厳選しHPや広報誌などに使っていた。

 そのうちの何枚かについて、言葉で紹介してみよう。

・1枚目「被災した幼い女の子に物資を渡す牧師」

 ある体育館。避難所となっており、大勢の被災者がいる。その片隅で物資を配る、ジャージ姿の牧師。
 写真は、小さな女の子に物資を手渡す牧師を映している。女の子も牧師も笑顔。

・2枚目「瓦礫撤去に勤しむ牧師」

 ある個人宅。洪水にやられて家の中は泥だらけで、家具やらサッシやら何やらが散乱している。汚れたジャージ姿の牧師が、大きな木片を抱えて、きつそうな顔で運んでいる。写真はその様子を中央にとらえている。

・3枚目「スタッフにご馳走して、労をねぎらいたい」

 ある料理店。豪勢な料理が並んでいる。それを囲むのは、被災地支援で頑張ったスタッフたち。牧師の姿はない。

・4枚目「大物と並んで立つ牧師」

 高級感あふれる応接室で、スーツに身を包んだ「大物」っぽい人たちと、肩を並べている牧師。こういう場のために購入した黒っぽいスーツが、テカテカ光っている。

 さてこれらの写真はどれも、牧師の指示によって撮影された。どんな指示があり、どんな状況だったのか、解説してみよう。

・1枚目の解説

 基本、物資を配るのも炊き出しをするのもスタッフで、牧師はほとんどやらない。牧師が自ら配るのはわずかな時間だけ。それも、カメラマンを従えて。

・2枚目の解説

 瓦礫撤去も若者たちにやらせるだけで、牧師は現場監督みたいに腕組みして見てるだけ。あるいは現地の人と歓談してるだけ。気が向いた時だけ、瓦礫を少しだけ運ぶ。やはりカメラマンを従えて。

・3枚目の解説

 この料理店には牧師もいて、皆と同じように食べていた。しかも、牧師が懐を痛めてご馳走した訳ではない。カメラマンが写真を撮ろうとしたら、「ここで自分を映すな」とはっきり命じていた。

・4枚目の解説

「大物」そうな人たちは、海外の企業の人たち。現地のクリスチャンを使って商談にまで持ち込んだ。でもあくまで商談しただけ。契約とか何もしてない(つまり断られた)。記念に写真を撮っただけで、べつに牧師が「大物」と繋がっている訳ではない。そう見えるだけ。

 というわけで、牧師の(えげつない)「イメージ戦略」を紹介してみた。こういうことをする牧師はごく一部だと思う(そう願う)けれど、確かに存在するので、教会のHPなどで使われている「イメージ」にはよくよく注意すべきだと思う。写真とはあくまで切り取られた「瞬間」であり、構図とかタイミングとか伝わってくる印象とかの「意図」があり、つまりは最初から「編集」が入っているメディアであることを、お忘れなく。

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