いただいたコメントで初めて知った、「最善の家系、最悪の家系」の話について。
これは大変興味深い。要約すると、ある人の生き方が子孫にどういう影響を与えるか、という研究をアメリカの社会学者(詳細不明)が行った。彼が選んだのは、渡米してきた以下の2人の人物。
■ジョナサン・エドワード
牧師・神学者。
イギリスからの移民。
のちにプリンストン大学の学長になった。
■マックス・ジュークス
職業不明(クリスチャンではない)。
オランダからの移民。
大酒飲みの乱暴者。
この2人の子孫を追跡調査した結果、ジョナサンの家系からは議員とか学者とか医師とか弁護士とか軍人とか副大統領とかが出た。
マックスの家系からは受刑者や先天異常やホームレスが沢山出た。つまり親の影響を子孫はモロに受ける、という結果が出たとのこと。
この研究をどこかで見つけたらしいクリスチャンの方々が、 神様を信じる者には恵みが代々施され、そうでない者にはその咎の報いが三代、四代にまで及ぶ、という聖句(出エジプト20章5~6節)はその通りだったね! みたいなことを言っている。
へえ。
これを見てまず私がしたのは、これがどこの誰がした研究で、他のどんな結果があるのか、調べることだった。
でもこれに該当する研究は、少なくとも日本語のネット上では見つけられなかった。その学者もジョナサンもマックスも詳細はわからなかった。わかったのは「マッドマックス 怒りのデスロード」がアカデミー賞を受賞したことくらいだ(関係ねー)。
それで英語で検索したらこういうページがあった。 要は、「この話は都市伝説の域を出ていない」ということ。
なんだよそれ。
でもとりあえず話を続けたいので、この2人の顛末も研究も事実だと仮定する。すると、まともな社会学研究であるなら、まさか研究対象者が2人だけってことはないってことになる。他にも対象者が大勢いたはずで、いろいろな結果が出たはずで、その中で標準偏差が出されたはずだ。私は真剣にそっちを見たかった。
またこの2人が家系的にまったく違う結果を出したのが事実だとして、まあそういうことは世々常にある。全然珍しいことではない。
それより私が疑問に思うのは、なぜこの対極的な2人の結果「だけ」が取り上げられているのか、ということ。あまりに対極過ぎて、その結果の差の大きさが、必然的なものと考えられる。出発点が違いすぎて、神様の介入の有無を明確には断言できないと思うのだ。
もし「神様の明確な介入」を証明したいのであれば、もっと中流で庶民的な、あまり差異がなさそうに見える人たちを選んだ方がいいと思う。つまり「大学の学長」と「酒飲み」を比較するのでなく、同じような境遇のサラリーマンの家系を100組くらいランダムに選んで、調査してみるのだ。その中には当然クリスチャンを入れておく。
それで、クリスチャンがいた複数の家系と、そうでない複数の家系とで、子孫の「出来栄え」を比較してみる。その差が歴然なら、はれてクリスチャンであることのメリットが証明されたことになる。
そういう研究なら意味があると思う。たった2人だけじゃなくて。
ジョナサンとマックスの話に戻ると、これはクリスチャンかどうかに関係なく普遍的にみられる現象だ。つまり金持ちの子供は金持ちになりやすく、教育水準の高い家庭の子供は教育水準が高くなりやすい。また特にアメリカなら経済状態によって住む場所がまとまる傾向があるから、良い住環境も子供に引き継がれやすい。貧困家庭の子供が医師や弁護士を目指すのは、裕福な家庭のそれに比べて相当困難で、ほとんど無理ゲーの域だ。
だから親のステータスが子孫の動向に強く影響するのは間違いない。またその「差」が、「大学の学長」と「酒飲み」とで大きくなるのは当然と言えば当然である(必ずそうなるという話ではない)。少なくとも、「はっきり神の祝福だ」とは言えない。
もしはっきり「神の祝福だ」と言いたいなら、むしろ2人の境遇が逆だった方が良い。つまり酒飲みの乱暴者だったマックスの子供が、ひどい家庭環境の中で神様を信じ、クリスチャンになって、苦学の末に牧師なり宣教師なりになって生涯を慈善事業に捧げた、みたいなストーリーの方が、神の恵みと言いやすい。
貧困は連鎖するうえ、貧困ゆえにいろいろな機会を逃しやすい。可能性も狭められていく。だから貧困になるんだという短絡的な話ではないけれど、実情としてすごく厳しいものがある。でもだからこそ余計に、「そういう状況でも神様を信じたらこんなチャンスを得た」みたいな話は受けるんじゃないかと思う。
と、いうようなことを私は考えた。そしてその結果至った結論はこれ。
この2人の話は家系云々の研究じゃなく、ただの「繁栄の神学」でしょ。
つまり、神様を信じてれば代々医師とか弁護士とか副大統領とかを排出できる家系になって、繁栄できるよ? 富と名声を得られるよ? でも信じてないと不幸になって犯罪者とか貧困になっちゃうよ? それでもいいの? その実例がジョナサンとマックスなんだよ? みたいな話。
でも、人生は「繁栄の神学」じゃないんだよ。もちろん繁栄できたら嬉しいけど、そうなるとは限らないんだよ。クリスチャンだからという理由でそれを期待できる、なんて聖書には書いてないんだよ。
それにそもそも、こういう都市伝説的な話をガチの研究結果と断定して話を進めてしまうのもどうなの。ちょっとはソースを調べておかないと、インチキになっちゃうよ。と私は言いたい。
私はプロテスタントのクリスチャンで神様の祝福の存在を信じていますが,「最善の家系、最悪の家系」のあまりにも思慮に欠けた考え方に空いた口がふさがりません。怒りさえ覚えます。
返信削除fumimaru kさんが仰っている通りこれは普遍的に見られる現象であって,社会学者ピエール・ブルデュー氏が「文化的再生産」という呼び統計学的に証明されているものです。(同者著『ディスタンクシオン』参照)
彼らはヨハネの福音書9章1~3節のイエス様の言葉(イエスはお答えになった。「本人が罪を犯したからでも、両親が罪を犯したからでもない。神の業がこの人に現れるためである。」)にどう釈明するのでしょう。目が見えなくなることと社会的な繁栄は別の土俵とだとでも言うでしょうか・・・。
ありがとうございます。ご紹介いただいた『ディスタンクシオン』、読んでみたいです。なにげに社会学に興味があるもので。
削除統計的に信頼できるデータを根拠にするならまだわかるのですが、たった2人の事例だけで何かを断言してしまうのは、浅はかとしか言いようがありませんね。まあクリスチャンには「現世的な繁栄」も必ず伴うはずだ、と信じたいのでしょうが。でもそれだとキリスト教信仰というより、ただのご利益主義ですけどね。
自分の意見を補強し信憑性を持たせるために,信用できない疑似科学や今回の話のような「それっぽいもの」を利用する牧師・伝道師があまりにも多いですよね・・・ToT
削除あまり宗派に分けて話をしたくはないものの,ペンテコステ派や聖霊派・福音派に多く見られる気がしてなりません。私はペンテコステ派で渦中におりますが,実情を心から憂いています。
しかし,そんな不完全な人でも「救われている」のだというのが聖書の主張ですから,本当に奥が深いなとつくづく思わされます。クリスチャンは常に,恵みとはどういうものなのかを吟味する必要があるかもしれませんね。「私は救われるに足る人間だ」と思い始めたら,黄色信号でしょう。
今回の件に関しても,神様が現在の文化的再生産がまかり通った状況の不公平さを良く思われているはずはありませんから,「教育水準や経済状況の差から来る不幸がこれ以上世代を超えて受け継がれてしまわないように,我々にできることはないかを祈り考え実行していこう」くらいのことを言って欲しかったなというのが正直なところです。「私は神を信じているから祝福にあって富んでいるが,あなたたちは神を信じていないから貧しいままだ。」などという短絡的な考え方は,ヨブ記のヨブと友人,エリフとの問答によって当の昔に却下されていることを,自戒も込めて肝に銘じたいものです。
キリスト教系で家系が云々というと、モルモン教を思い出します。あそこは確か信者になると、家系図を書かせるはずです。ソルトレークシティには、信者たちの家系図を収めた家系図図書館というものがあるとも聞いています。
返信削除あとは統一教会でも家系の話をよくします。彼らが収益手段として使う霊感商法がそうです。霊感商法では印鑑などを買わせるときに、やはり家系図を書かせるというう話を聞いたことがあります。また「霊能師の先生」とやらにふんした信者が「あなたの家系は武士の家系で、実は先祖が人を殺している」とやって、印鑑や多宝塔を買わせているのです。
もっとも家系を重視した教義は、立正佼成会もするということですので、新興宗教系の宗教団体では、大なり小なり家系というものをとりあげる傾向があるようですが。
新興宗教系プロテスタントで家系をいうのは、やはりエリヤハウスでしょう。ここはリバイバルミッションでいう、家系の呪いという教義にもかかわっているのかもしれません。
興味深い事実があります。新興宗教系プロテスタントでは、三大異端であるモルモン教・統一教会・ものみの塔聖書冊子協会をぼろくそにいいますが、少なくとも家系の話を口にするわけですので、彼らが日ごろはぼろくそにいっている、モルモン教や統一教会とそっくりなのです。このあたりをどう釈明するつもりなのでしょうか?
余談ですが、新興宗教系プロテスタントで、カルト化した教会の聖職者の家系について、時折さまざまな噂が飛び交っています。信者の家系を言い立てるよりも、むしろカルト化した教会の聖職者の家系を言い立てたほうが、「あーやっぱしね」とにやりとしてしまうものがあるという・・・