台風被害も利用する、神学なき牧師について

2015年7月18日土曜日

「霊性」問題

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 台風11号がゆっくり日本にやってきて、四国と中国を通り、各地にじゃんじゃん雨を降らせて、今日未明にようやく熱帯低気圧に変わった。だがまだまだ大雨による土砂災害などが懸念されている。

 今回の台風も、例によって主に西日本に被害をもたらした。昨夜は関西で満員電車が線路上で立ち往生してしまい、大変な目に遭った方々が多数いたとのこと。すみやかに回復されることを願う。

 ところで私は学生時代から地学が好きで、気象の分野などけっこう楽しんで学習した。
 だから熱帯の海上で低気圧が発生して、成長していわゆる台風になり、偏西風でカーブしながら日本にやってくる、という基本的な理屈は一応知っている。
 日本は東西に伸びているから、台風はどうしても西側から上陸する。そして上陸すると衰えるから、結局東側にはあまり被害をもたらさない。だから多くの台風は西日本で猛威をふるい、東日本はそのおかげで守られる、みたいな構図になっている(もちろんケースバイケースである)。

 それは地理的にそうなのであって、たとえばエベレスト山脈があるせいで日本に梅雨があるのと同じく、避けられない。けれどごく一部の牧師や教会に言わせると、「日本は歴史的にずっと東西の霊的対立があって、特に西側の罪が大きいのだ」ということになってしまう。有名で大きな神社仏閣が西日本に多いのも影響していると思う。なんの根拠があって言うのか、全然わからないけれど。

 だから関ヶ原の合戦で負けたのも、原爆を落とされたのも、全て「西日本の歴史的な罪のせい」ということになってしまう。 もちろん滅茶苦茶な話である。
 滅茶苦茶ついでに言うと、「東西の霊的和解を」みたいなコンセプトで「西日本伝道旅行」みたいなイベントを敢行しちゃう教会なんかもあって、中の人々はどうしてこれが大真面目なのである。

 だからそういう教会の人々からすると、今回の台風11号が西日本で猛威を振るったのも当然である。「さもありなん」とか「西日本の(あわれな)人々のために祈りましょう」とか、まあ言いたい放題である。

  けれど台風の話だけみても、上記のような地理的要因で西日本の被害が多いのであって、霊的要因などまったく定かでない。当然聖書に書かれているわけもなく、なんの根拠も証拠もない。ただの言い掛かりである。

 彼らは「霊的」であることにこだわるけれど、結局のところ、目で見える部分でしか判断できていない。なぜなら前述の関ヶ原の戦いとか、もっと遡ると南北朝時代とか、そういう歴史的事実の積み重ねから「東西の対立がある」みたいな結論を導き出しているに過ぎないからだ。いかにもそれらしく語るけれど、神様から直接聞いたはずがない。というのも、西日本を拠点とする牧師でそういうヨタ話をする人は(私の知る限り)1人もいないからだ。仮に東西の問題が本当にあるとして、東側の人にだけ語られるというのもおかしな話ではないだろうか(もっともその前に、神様が今も直接的で具体的な語りかけをするのか? という問題があるだろう)。

 仮に彼らの話が正しいとして、では東日本大震災はどう解釈されるべきだろうか。東日本の罪、あるいは東北の罪とでも言うのだろうか。西日本の罪はどこへ行ったのだろうか。

 けれどそういうことを言い出すと、本当にキリがなくなる。何か悪いことがある度、その地域やある集団や歴史的出来事との因果関係が持ち出されるからだ。
 たとえばある小学校に刃物男が乱入し、複数の児童生徒を傷つけるという悲惨な事件が起きたとする。それを見たある牧師は、こう言うかもしれない。「その小学校は以前、百姓一揆の首謀者らがさらし首にされた場所だった。文献には残っていないけれど、これは神に語られた霊的事実だ」

 そういうことを言い出すといろいろ言えるわけで、じゃあその百姓一揆が起こった原因も、その地域のもっと古い歴史的な何かに関係しているのか、みたいな話になってしまう。けれどそれはもはや確かめようがないし、際限なく過去に遡って事実を探求しなければならなくなる。キリストの十字架で全てが贖われた、という本来の福音はどこへやら。

 だいいちそれは因果応報の考え方であって、たとえば父親が罪を犯したから子がその報いを受ける、みたいな話である。けれど聖書が言うのは、親の罪で子が裁かれてはいけない、だ。まったく逆の話だ。

 だから冒頭の台風被害が多いのは西日本の歴史的罪のせいだ、みたいなことをしたり顔で言う牧師は、聖書も福音も実は知らない可能性が高い。牧師なのに聖書を知らない、というのはすごく致命的な気がする。けれど案外問題視されておらず、のうのうとやってる牧師が多いのもいかがなものかと、私は常々思っている。

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