All you need is kill の感想(ネタバレあり)

2014年6月2日月曜日

書評

t f B! P L
 桜坂洋のライトノベル "All you need is kill" がハリウッドで映画化され、日本では7月公開予定となっている(2014年5月現在)。主演はかのトム・クルーズ。原作は「時をかける少女」の筒井康隆にも絶賛されており、気になって読んでみた。私個人としては初のライトノベル体験である。

 読んで感じたのは、「ライトノベルという文化」が存在するということだ。文章だけ見るならば、どう贔屓しても稚拙感を否めない。むやみな改行やスラングの連打が多くて、正直辛い。けれどそこには何かパワーというか、勢いというか、そういう御託を言わせない何かがある。これはライトノベルという、一つの文化でありジャンルであるのだろう(と私は思った)。

 それに、本作は発想が面白い。あらすじはこんな感じ。

■あらすじ
 近未来、地球はギタイと呼ばれる異星生物の侵攻を受けている。日本では「統合防疫軍」が戦線を守っているが、苦戦を強いられている。主人公キリヤ・ケイジは初年兵としてその戦闘に参加するが、戦闘開始早々に戦死してしまう。しかしその瞬間、出撃前日に戻っていることに気づく。
 キリヤは自分が死ぬ度に出撃前日に戻るという、タイムループに囚われていることを知る。そこから逃れられないと悟った彼は、しかし記憶だけは蓄積されるという利点を生かして、「何度でもやり直せるゲーム感覚」で戦闘訓練を始める。死ぬ度に彼は新しい知識と戦略を得、前回よりも多く、長く、戦えるようになっていく。
 そんな中、圧倒的戦闘力を持つリタ・ブラタスキという少女に出会う。実は彼女も自分と同じく、タイムループに囚われた存在だった。二人はこのループから抜け出すべく行動を始める。果たして二人に明日はくるのだろうか。

 いわゆる「ループもの」で、古くからある物語類型である。けれど「失敗しても解決するまでやり直せる」というゲーム感覚は新鮮であろう。映画「ミッション:8ミニッツ」に通じるものもある。
 ループもので面白いのは、前回の失敗を踏まえて次回はより良い行動を選択できるという、世界に対する圧倒的優越感であろう。しかし本作では、その辺はあまり描かれていない。強くなっていく過程自体はあるけれど、さらりと書かれている。そこは映画版に期待したい。

■ネタバレ
 物語の核心部分を簡単に説明する。未読の方は注意。設定を若干読み違えているかもしれないので、あしからず。

・ギタイには「サーバー」という特殊な種類がいて、過去の自分自身に対して、危機となる情報を送っている。だからギタイらはある程度の未来を知っており、常に最善の戦略を選択してくる。
・サーバーを殺した人間には、その能力が付加される。その人間が死ぬと、そこまでの記憶を過去の自分自身に送信することになる。だからサーバーを殺した人間にはループが起こる(キリヤは最初の戦死前に、期せずしてサーバーを殺していた)。
・そのループから抜け出すには、「アンテナ」と「バックアップ」を破壊してからサーバーを殺さなければならない。
・しかしループを繰り返す人間は、自身の脳がアンテナの役割を持つようになってしまう。
・だからキリヤかリタか、どちらか一方の「アンテナ」が死ななければ、もう片方がループから抜け出すことはない。
・それを知っているリタは最終局面でキリヤに戦いを挑む。が、逆にキリヤに殺される。
・リタの死後、キリヤはサーバーを殺してループから脱出する。ギタイのループはもう起こらない。リタを失い傷心のキリヤ。しかし戦いは続く。

 本文を読んでいてよくわからない設定が散見されたけれど、だいたい上記の内容で間違いないとは思う。もともとタイム・ループものとかタイム・トラベルものには、何らかの矛盾や逆説があるようだから、あまり細かいところを突っ込むのも無粋であろう。それより人物の描写や物語の展開を単純に楽しむのが、SFの読み方だと思う。
 しかしそうは言っても、キリヤとリタ以外の登場人物がけっこう雑に扱われていて、可哀想だった。最初の方に登場する栄養士のレイチェルなど、物語に関わってきそうな雰囲気はあったけれどまったく出番がなく、最後は登場する間もなく死んでしまう。

 タイトルの"All you need is kill"は、「殺しがすべて」みたいな意味だろう。当初は侵略者=ギタイの群れを殺しまくるのがすべて、という意味に取れる。けれどおそらく本当は、戦いの中で愛するようになった少女・リタを殺さねば明日はない、というこの物語のキモとなる部分を暗示しているのだと思う。ちなみに映画版の原題は "Edge of tomorrow" である。

 

 

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