権威が人に及ぼす影響は意外に大きい、という話

2014年5月14日水曜日

カルト問題

t f B! P L
 いわゆる「カルト化教会」の話になると、そこの牧師が非難されるのは当然であろう。カルト化の張本人である可能性が高いからだ。しかしそこの信徒(特に大人で牧師に近かった人たち)も同様の非難を浴びることがある。「なぜ気づかなかった」「なぜ止められなかった」「何をやっていたんだ」というような非難だ。

 そういう非難を浴びせたくなる部外者の心情は理解できる。大人なら良識ある行動を取るべきだし、不正は正すべきだからだ。しかしこういうケースでそういう信徒を非難するのは、やや状況理解に欠けていると私は思う。現場を見ていないのだから当然かもしれないけれど、想像で、あるいは結果だけ見てものを言っているのではないだろうか。

 このブログでいろいろ書いてきたように、そういう教会の信仰の在り方には問題が多い。明らかにおかしなこと、間違っていることもある。「普通だったら気づくだろう」と言われても仕方がないレベルかもしれない。しかし結論から言うと、一信徒にはそれに気づけない。あるいは疑問を抱いて葛藤したとしても、最終的には、これが信仰なのだと自分を納得させるしかないのだ(この心理についてはまた別に書きたい)。それができず、牧師と衝突することを選ぶ数少ない「勇者」(と私は呼びたい)は、散々傷つけられた挙句教会を出ていくことになる。

 ではなぜカルト化に気づけず、牧師を止められないかと言うと、「信仰と称する権威主義」が強力に働いているからだ。牧師の権威は聖書に裏付けられ(こじつけられ)、どんどん強化されていく。同時に信徒らはその権威に、いつのまにか雁字搦めに縛られている。しかしそうとは気づかない。

■なぜそうなってしまうのか

 人の「性格」を、その「行動」から判断する、という人は多いだろう。たとえばAさんが人に親切にしていたら、「Aさんは優しい人だ」と評価され、そのような性格だと分類される。
 同じ理屈で、カルト化教会で牧師のそばにいた信徒らも、「カルト化に気づけない大馬鹿者たちで、牧師と一緒になって人々を傷つけた極悪人」と評価されるかもしれない。
 しかし心理学的に言うと、その「行動」がその人の「性格」を決定づけるとは必ずしも言えない。

■ミルグラムの実験に見る「行動」と「性格」の関連性(不関連性)

 ミルグラムという心理学者が行った「服従実験」というのがある。
 この実験では、「罰が学習に及ぼす影響を調べる」という名目で、被験者がランダムに集められた。被験者は教師役となり、もう一人の参加者は生徒役となる(こちらは実はサクラ)。教師役は生徒役に問題を出し、間違ったら電気ショックを与えるよう、主催者から求められている(主催者と被験者とには一定の従属関係がある)。
 生徒役はサクラで、あえて問題に間違える。だから教師役である被験者は、毎回電気ショックを流すボタンを押さねばならない。そして電気ショックは30段階になっていて、押すたびに電圧が上がる仕掛けになっている。最初は「軽い電撃」だけれど、29段目は「危険な電撃」、最後は「×××」となっていて、どれだけ危険かわからない。
 ちなみに本当に電気が流れる訳でなく、サクラは迫真の演技で苦しんでいるだけだ。もちろん被験者はそうとは知らない。自分がボタンを押すことで、生徒役に電気ショックが加えられると思っている。なお被験者がボタンを押すのを拒むと、傍らにいる主催者は、4回までは決められた台詞で、押すよう促すことになっている(つまり被験者が5回拒んだら、実験は中止となる)。
 さて、実験前に、精神科医らが結果を予想した。何の罪もない生徒役に30段目の電気ショックを流してしまう被験者は、全体の4%程度だろうと彼らは考えた。しかし結果は予想をはるかに上回り、40人中25人、つまり62.5%が、最後のボタンを押すに至った。

 行動だけ見るなら、彼ら25人はもともと極悪非道の人間だったのだと評されるだろう。しかし彼らは喜んでしたのでなく、自ら進んでしたのでもなく、止めたいと思いながらも続けざるを得なかったのだった。その背景には、「権威と服従」の構造がある。
 人の行動はその性格だけで決まるのでなく、環境・状況が大きく影響している、ということが、この実験で証明された。

「権威に逆らえないのは弱い人間だ」といって非難する意見もあるかもしれない。それはその通りであろう。弱いのが人間というものではないだろうか。

 しかしこうは書いても、そういう信徒らにまったく罪がないと言うつもりはない。彼らにもそれぞれ、取り組むべきことがあるだろう。被害者であると同時に、加害者の片棒を担がされたという点は否めないからだ。けれどそれでも、彼らが必要以上に責められるとしたら、そこには絶対的な理解の不足がある。私はそう考えている。

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