どうなるかよく考えずに決めてしまう危険性:「図書館戦争」映画評

2013年10月15日火曜日

映画評

t f B! P L
 邦画「図書館戦争」をDVDで観た。
 岡田准一と榮倉奈々が主演だからミーハーっぽいかと思ったが、映画として(荒唐無稽ながら)なかなか良くできていた。有川浩の原作は読んでいないから両者の違いはわからない。

 この作品の秀逸なところは設定にあると思う。「メディア良化法」なる法律が成立した日本が舞台で、図書などのメディアが厳しい検閲を受ける社会となっている。発禁図書を取り締まる「良化隊」は武力行使も辞さず、多くの書店を閉店に追い込んでいる。そんな図書を守る唯一の機関が図書館で、独自の軍隊「図書隊」をもって良化隊に対抗している…という背景で、物語が進んでいく。

 私が興味深く思ったのは、このメディア良化法の成立に関してだ。要は「有害メディアから国民を守る」と「表現の自由」の真っ向対決なのだが、最終的には前者が勝ったことになっている。
 有害メディアを規制すること自体は決して悪いことではない。けれどその規制が行き着く先は、情報統制とか情報操作とかいう独裁政治的状況かもしれない。
 そこで得する人はきっと少ない。しかしその法律の成立には、大勢が賛成した。
 その皮肉な展開は、かつてドイツ国民がこぞってナチスを選んだこととその結果に似ている気がした。

 この作品は、そういう規制の危険性に警鐘を鳴らすと共に、「どうなるかよく考えずに決めてしまう危険性」みたいなことに注意を促しているように思える。現在自民党政権が進めている改憲の動きを想起させられた。

 そういうことを考えていたら、話が飛ぶようだが、一部のクリスチャンが行っているホームスクーリングを思い出した。「子どもを『この世』の悪影響から守りたい」と願う彼らの気持ちはよく理解できる。けれどその結果、親が見せたいと願う情報しか子どもに与えない状況を作り出すとしたら、それはメディア良化法のコンセプトと基本的に同じなのではないかと思う。
 それを否定しようとは思わない。けれど、そういう社会に住みたいとは私は思わない。

 作品としては荒唐無稽でツッコミどころが多いけれど、「こんな社会だったらどうなるだろう」ということをリアルに考えさせてくれるという点で、多くの人に観ていただきたいと思う。

 ちなみに主演は岡田准一らしいけれど、話自体は榮倉奈々を中心に進んでいく。彼女の成長物語として観た方が自然かもしれない。そういう意味で、男子よりは女子向けの映画と言えると思う。
 また、この2人のアクションが本格的で良い。岡田准一は空手の師範代だから当然かもしれないが、榮倉奈々が意外に長身で、スポーツもできそうで驚いた。

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