Cloud Atlas

2013年3月24日日曜日

映画評

t f B! P L
どの時代も人は支配する者と支配される者に分けられる。
そして後者は、解放のために戦う。
 

邦題「クラウド アトラス」(2012年・アメリカ)

■概要

 6つの時代のそれぞれの出来事を、同時進行で描くSFドラマ。
 それぞれの主人公は身体のどこかに彗星形のアザを持っており、それぞれが「支配からの解放」を試みる。その繰り返しの根底には、ニーチェの「永劫回帰」の思想がある。

※仏教的「輪廻転生」とは異なる思想であり、同じ役者がそれぞれの時代に別人として登場するが、生まれ変わりを示唆しているわけではない。

■あらすじ(ネタバレあり)

①アダム・ユーイングの太平洋航海記
 1849年、奴隷売買の契約を終えた弁護士のユーイングは、アメリカへの船旅についている。
 その途上、密航していた黒人奴隷オーティアを助ける羽目になるが、その過程で友情が芽生え、奴隷制度に疑問を持つようになる。船上での病気や殺害の危機を乗り越え、妻ティルダの待つアメリカ南部へ帰還。ユーイング夫妻は、奴隷解放運動に身を投じる決意をする。

②セデルゲムからの手紙
 1936年、駆け出しの作曲家フロジャーは、ユーイングの航海日記を愛読している。彼は著名な作曲家エアズのもとで六重奏「クラウド アトラス」を書き始めるが、その権利をエアズに奪われてしまう。何としても曲を完成させたいフロジャーは、エアズを殺害。追手から逃れつつ、曲を完成させる。 同性の恋人シックススミスに手紙ですべてを託し、彼は銃口をくわえ引き金を引く。

③ルイサ・レイ最初の事件
 その37年後、物理学者となったシックススミスは、フックスが経営する石油企業の陰謀を告発しようとしていた。が、ジャーナリストのルイサ・レイに接触する前に暗殺されてしまう。
 シックススミスの遺品からフロジャーの手紙を見つけたルイサは、六重奏「クラウド アトラス」にたどり着く。
 ルイサはフックスが石油利権を守るため、大規模な原発事故を起こそうと画策していることを突き止める。暗殺者の手から辛うじて逃れ、彼女はその告発に成功する。

④ティモシー・カべンデッシュのおぞましい試練
 2012年のロンドン。老編集者のティモシーは仕事でトラブルに遭い、兄に助けを求める。が、ティモシーに恨みを持つ兄の策略により、老人介護施設に監禁されてしまう。仲間とともに施設を脱出したティモシーは、若い頃離れ離れになった恋人アーシュラとの再会を果たす。

⑤ソンミ451のオリゾン
 2144年、全体主義国家に支配されたネオソウル。ファブリカント(クローン人間)のソンミ451は、カフェの給仕として酷使されていた。彼女は禁止されているティモシー・カベンデッシュの自伝映画を仲間に見せられ、外界に興味を持ち始める。ソンミを革命の広告塔にしたい革命軍の司令官チェンは、彼女に接触、脱出させる。国家の残酷な正体を知ったソンミは、敗戦を知りつつ革命に身を投じ、世界中にメッセージを送る。

⑥ノルーシャの渡しとその後のすべて
 文明崩壊後。地球は放射能に汚染され、残された人類は滅亡の一途をたどっている。ある島で女神ソンミを信仰しているザックリーは、人食い族に怯えながら未開の暮らしをしていた。ある日、科学文明を維持するコミニティーからメロニムがやって来て、ザックリーに山のガイドを頼む。実はその山の頂上には、外惑星への通信施設があった。外惑星へ移住した人類に助けを求める以外、地球人類が生き残る術はなかった。

冒頭と結末
 老後のザックリーが登場。時空を超えた物語を語る(①から⑥まで全て話したと思われるが、なぜ彼がそれらを知っているか不明)。
 結末、ザックリーがいるのが地球でない別の惑星であることがわかる。彼らは外惑星への移住に成功したのだった。

■壮大・圧巻

 よくぞ作り上げたものである。いろいろ批判もあるようだが、私はたいへん満足できた。3時間弱の上映時間もあっという間だった。一つの映画で19世紀から22世紀とそれ以降を描きつつ、一つのテーマ「支配からの解放」で一貫させているのは圧巻の一言。
 ただ、6つのエピソードが並列されているのはいいのだが、細切れになり過ぎているように感じた。一つ一つを、もう少しじっくり見られたほうが良かったような気もする。DVD等でリリースされる時には、ぜひ、6つのエピソードを順番に見てみたいのだが、叶わないだろうか。
 予告編で"Everything is conected"(すべてが繋がっている)というキーワードが提示されているが、それほどの繋がりは感じなかった。何度か見なければわからないのかもしれないが。
 また、俳優たちが凝ったメイクでいろいろな役を演じるのはすごいのだが、その必然性が感じられなかった。べつに生まれ変わっているわけでもないし。

■これは仕掛け? 偶然?

 まだ観終ったばかりだが、一つ発見。
 トム・ハンクスとハル・ベリーは6つの時代すべてに登場するが、彼らの役柄を単純に「善・悪・中立」で分けると次のようになる。

トム・ハンクス
①グース医師(悪)
②ホテルの支配人(中立)
③アイザック博士(善)
④ダーモット(悪)
⑤映画中のティモシー・カベンデッシュ(中立)
⑥ザックリー(善)

ハル・ベリー
①マオリ族の女性(中立)
②ジョカスタ・エアズ(悪)
③ルイサ・レイ(善)
④出版パーティの女性客(中立)
⑤闇医者オビッド(悪?)
⑥メロニム(善)

 それぞれ同じ順番で繰り返している。偶然と言えばそれまでだろうが、意味がありそうでもある。

■注意

 ⑤ソンミ451のエピソードと⑥ザックリーのエピソードの残酷描写がなかなかえぐい。私はもともと低血圧症で、「ハンニバル」の終盤で低血圧を起こしたことがある。今回も低血圧を起こしてしまった。満員の劇場だったので大変だった(笑)。隣で見ていた息子は平気だったので、私だけの問題かもしれない。

QooQ