Tower Block

2012年12月2日日曜日

映画評

t f B! P L
 邦題「「タワーブロック」(2012年)
 TSUTAYAのコマーシャル映像で気になっていた作品である。
 イギリスの低予算映画。日本では上映されずDVDになったようである。
まったく知らない俳優たちが全部で20人弱。舞台のほとんどは、おんぼろマンションの廊下。しかし目が離せないシチュエーション・スリラーに仕上がっている。

あらすじ
 解体予定のマンションで、住人たちは立ち退きを求められている。それでも最上階の何世帯かが居座っている。
 独身女性、若夫婦、老夫婦、シングルマザー、チンピラなどだ。業者は困っているようだが、それほど急いでいるようでもない。「さて、どうしたもんか」とのんびり話し合っているという状況。

 数ヶ月前。このフロアの廊下で、15歳の少年が2人組に暴行され、死亡した。
 住人たちは気づいていたはずだが、誰も助けなかった。
 後から警察が来ても、知らぬ存ぜぬで、事情聴取にならない。

金曜日。
 住人たちの日常が過ぎていく。
 イギリスの事情はよく知らないが、中流の下くらいの暮らしぶりに見える。

土曜日。
 のんびりした朝の風景。のはずが、突然銃撃を受ける。
窓側からの狙撃が、次々と住人たちを倒していく。この最初の銃撃で5人が死亡。2人が負傷。パニックになりつつ廊下に避難する住人たち。
 電話もネットも使えない。エレベーターにはトラップが仕掛けられている。
 なぜ自分たちが?
 まったくわからない。
 ただ一つわかっているのは、窓のカーテンを開けただけで即座に狙撃される、ということだけ。

日曜日。
 住人たちは次々殺され、残るは3人。何とか反撃に出ようとする。
彼らの策とは

犯人について
この手のミステリーの犯人は、次のどちらかに大分類される。

・劇中に登場した誰か。
・まったく登場していない誰か。
 
 
 後者の場合は犯人当てが成立しない。私はそういう作品は好きでない。裏切られたような気がするから。
前者の場合、安易な推理は必ず外れる。意外な人物が犯人、というのが最近のミステリーの定石だ。本作もそうである。

 犯人がわかった時点で、動機は容易に想像できた。
 しかし、「だからってここまでしないだろう」というのが私の感想である。
 その動機で今回の住人皆殺し作戦を実行したのだとしたら、犯人の心理は、非常に矛盾したものになると思う。
 この犯人像だけが、唯一不満である。

作品の評価
私は高く評価している。
 まったく無名な人たち(もしかしたらイギリスでは有名かもしれない)が気取らない日常を過ごしているのがいい。それまでの強者と弱者が、緊急事態に陥って逆転するのもリアルで面白い。なぜこの人たちが狙われるのか、という疑問を最後まで引っ張るが、緊迫の演出で飽きさせない。
 狙撃が始まるのも突然で、それがまたリアルである。
 普通の映画だと、事件が起きる時は「何かが起きる」ことを予想させるような効果音なり演出なりが成されるが、それは現実的ではない。本当の事件とは、急に起こるものであろう。あるいは、いつの間にか起こっているものであろう。そして何が起きているのか把握できないまま、進行するのであろう。
 後から振り返ると、それが事件だったとわかるのだ。

 作り手がどこまで意識したかわからないが、映画全体を包むリアルさが良い。
前述した通り、犯人だけは現実離れしているように感じたが、もしかしたら、現実とはそういうものかもしれない。

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