ラーラ・プレスコットの「あの本は読まれているか」には、互いに惹かれ合いながら結ばれることを恐れるレズビアンの二人が登場する。 女性は結婚して子どもを産んで家庭に入るもの、という社会規範がまだまだ根強かった時代。それに反するのはほとんど社会からの脱落を意味した。さらに同性愛者ははなから無視された存在だった(同性愛者だと知られたら職を追われる等の実害を被った)。 つまり、同性愛指向でありながら、異性と結婚しなければならない時代だったのだ。
時代物には親に決められた結婚を強いられる若者たちの悲哀がよく描かれる。けれど同性愛指向の人々は、それに輪をかけた苦痛が強いられる。その点だけ見てもマジョリティとマイノリティは全然対等でない。「同性愛は治療可能」とかいう前時代的な言説は、その非対称性を完全に無視している。
本書はC.I.A.が実際に行った「ドクトル・ジバゴ作戦」の裏側を描くスパイ小説だ。けれどわたしには、一冊の本に運命を翻弄されながら、それでもひたすら立ち向かっていく東西の女性たちの姿が鮮烈だった。 イリーナとサリーは、結局結ばれたのか、否か。 ぜひ読んで確かめていただきたい。