うまく編集・脚色された「父なる神の愛」

2014年9月1日月曜日

キリスト教信仰

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 8月29日から、フランス映画「グレートデイズ! ー夢に挑んだ父と子ー」が公開されている。
 脳性麻痺の息子と、かつてトライアスロン選手だった父(失業中)とが2人でアイアンマンレースに参加、その過程で親子の絆を取り戻していく、という感動物語である。2人で参加と言っても息子は脳性麻痺なので、基本的に父が彼を引っ張り、抱きかかえ、押して走らなければならない。息子が寝かせられたボートを、父が引っ張って泳ぐ。息子が乗る車椅子を、父が押して走る。その姿に「お父さん頑張れ!」となる映画である。

 私はこの映画は未見だけれど、だいたいわかる。と言うのは、この元ネタである「ホイト父子」の動画が一時期、福音派・聖霊派の教会で取り上げられ、もてはやされたからだ。どこまで広がったか知らないけれど、知る人ぞ知る父子である。


 年に数回、主にアメリカの宣教団体から「神の器」が来日して、関係のある教会を巡回する、というのが福音派・聖霊派ではすっかり習慣になっている。もうずいぶん前になるが、そういう巡回の一コマで、"Father's love"(父なる神の愛、とでも訳すべきか)というテーマでメッセージされた。天の神様は私たちのお父さんであって、神様は「父の愛」で私たちを愛しておられる、という話だ。最後、「父なる神の愛を現す動画があります」ということで流されたのが、上記の「ホイト父子」の映像であった。
 
 おそらくそこにいた全員が初見だったと思うけれど、かなりの割合で涙腺崩壊が起こった。息子が寝かせられたボートを、父が力強く引っ張りながら泳ぐ、そのワンシーンのインパクトはなかなか強烈だった。「天の父も同じように私たちを抱きかかえ、運んで下さるのです」そう語られながら映像を見ていると、確かにホイトお父さんが神様に、何もできず横たわるホイト息子が自分自身に見えてくる。「ああ、神様はこんなに力強い、私のお父さんなんだ」ということで、感動のクライマックスを迎える。

 後から知ったのだけれど、このホイト父子はべつにキリスト教精神でそういうレースに出場している訳ではない。「やればできるさ "Yes, you can"」という本を出版していて、人間努力すれば何でもできる、みたいなことを自ら実践しているのである。もちろん、「動けない息子の為に」というホイト父の愛があってのことだと思う。けれど、キリスト教的な父なる神の愛が云々というのは、彼らが言っていることではない。完全な後付けだ。

 また、その時見せられた動画は、クリスチャン向けに編集されたものだった。BGMはコンテンポラリー・ワーシップで、BGMに合わせて映像も盛り上がっていく。ホイト父子のキーワードである"Can"も、なぜかピリピ4章13節の「私は~中略~どんなことでもできる(Can)のです」にすり替わっている。
 つまりその動画に関して言えば、ホイト父子はキリスト教の宣伝に使われたのである。

 百歩譲ってそういう宗教的脚色を看過するとしても、結局そういう「感動」を利用しないとメッセージできないというのは、問題ではあるまいか。

 という話はさておき、映画「グレートデイズ」は、きっと感動できる物語に仕上がっているだろうと思う。父子の愛と絆に涙を流したい人には、(きっと)おススメであろう。かくいう私は、前述の通りホイト父子に「感動疲れ」しているので、観に行こうとはちょっと思えないけれど。

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