ではさっそく。
・書籍紹介(裏表紙から)
日本人の0.8%しか知らない「キリスト教」
近年、様々なメディアでキリスト教が取り上げられているが、その多くが「(日本における)現場・現実」と接点のない、「歴史や教養」のひとつとして語られることが多い。日本に約0.8%いると言われているクリスチャンや牧師・神父の現状を書いた、「キリスト教の今」を知るための一冊。
・クリスチャンの方が楽しめるかも
内容はだいたい上記の通りです。「キリスト教の今」を知らない人向けに平易に書かれています。つまりノンクリスチャン向けかと。でも本文にもある通り、「よその教会のことは知らない」というクリスチャンの方も多いと思いますから、たぶんクリスチャンが読んでも面白いと思います。むしろ別の教派の実情を知って「へえ、そうなんだ」という発見があるのは、クリスチャンの方かもしれません。
第2部の対談のメンバー(人選)がまたバランスとれてて面白かったです。
カトリックから晴佐久昌英さん、福音派から森直樹さん、ルーテルから関野寛和さん、会衆派から川上咲野さん、という絶妙感。対談中、晴佐久さんと森さんがケンカになるんじゃないかと読んでてヒヤヒヤする部分がありましたが、そんなことは全くありませんでした。森さんがすごく冷静で、「福音派は◯◯って言ってますよ」みたいに(自分の所属する教派なのに)距離を置いているのが良かったです。個人的には。
ただ「キリスト教の今」と言うより、厳密には「牧師・神父の今」と言うべき内容かな、と思いました。対談のメンバーが牧師・神父なのでそれは仕方ないのですが、いわゆる「教会」や「クリスチャン(一般信徒)」のリアルが書かれているわけではありません。あくまで牧師・神父の目線で語られているわけですね。
だから逆に言うと、牧師・神父の諸事情がわかって面白いです。普段のスケジュールとか休日とか、給料とか、結婚とか家族とか、世襲とか定年とか、普段(普通に教会生活を送っていると)なかなか聞けない話ばかりです。そういう意味では、やっぱりクリスチャン向けなのかな? とも思います。
・感心したセリフ
個人的に傍線を引きたくなったセリフを一箇所紹介します。
牧師・神父の数が減少傾向にあり、必然的に教会数も信徒数も減りつつある、という下りで晴佐久さんが言ったのがこれ。
「(日本の教会は)それこそ翻訳の福音のようなものを必死に学んで、形式的に語って、これが正しいって言い張って。誰も目の前で救いの喜びを感じていないのに、理解力のないお前が悪いみたいな感じの、一方通行の語りだけだから。果たしてそれをキリスト教と読んでいいかどうか疑問があります」
この「一方通行の語り」というのが、けっこう多いんじゃないかなあと同意するところです。一方的に語っておいて、相手が同意しないと、「理解力がない」「霊的に開かれてない」「悟る力がない」みたいなことを平気で言う教会指導者がいるなあと。
・笑えたセリフ
電車の中で読んでて思わずクスッと笑ってしまった(恥ずかしかった)箇所も紹介しましょう。
牧師・神父の「趣味」という話題で、関野さんの趣味がキックボクシングだとわかった後の下り。
森「(自分の教派では)やっぱりまじめな牧師たちが多いので、キックボクシングが趣味なんてあり得ない(笑)」
関野「でも、牧師は人を殴れないじゃないですか」
松谷「牧師じゃなくても人は殴れないですよ」
この空気感はぜひ本書を読んで味わってほしいのですが、松谷さんのツッコミがかなり鋭くて、時々笑えます。
ちなみにこの後、すかさず川上さんがシレッと別の話題を始めているあたりがまた良いですね。
・シメがほのぼのしてて良い
最後のセリフが私はけっこう好きです。またしても晴佐久さんの言葉なのですが、
みんな一緒にいるなら、地獄も天国になっちゃうんじゃないですかね。
これは教義的にどうこうという類の話でなく、文脈の中で冗談ぽく語られた言葉です(だから教義的なツッコミは勘弁して下さい)。でも、「信じたら天国、信じなければ地獄」というステレオタイプな(そしていささか窮屈な)宗教観を押し付けられるより、ずっとほのぼのしてて良いなあと思います。しかも司牧からこういう言葉が出るってところが新鮮ですね。
いずれにしても、ここで紹介したのは本編のごく一部です。しかも対談のリズミカルな雰囲気はまったく紹介できていません。対談の文脈の中でこそ生きてくる言葉もあると思いますので、気になる方はぜひ、本書を手に取られたら良いかと思います。
やっぱり、晴佐久神父は別格ですね。
返信削除この本はそれなりに面白いことは面白いとは思います。聖職者の側の事情がわかるので、そんな意味ではなかなかいいところに目を付けたといえるでしょう。
返信削除ただ「こんなものを手に取るのは信者であって、非信者は手に取ることはなさそうだし、手にとっても面白みはあまりわからないのではないか」という評価をする人もいます。
確かに信者の側の「キリスト教のリアル」があれば、そちらのほうが非信者にとっては面白く読めるでしょう。
聖職者がどうかというよりも、信者になったらどうなるのか?のほうが、非信者にとっては気になる点だからです。
「キリスト教のリアル」に出ている聖職者の中で、新興宗教系プロテスタントの聖職者が一人だけいますが、この人はこのブログ主の体験談に出てくる聖職者とは正反対のタイプです。新興宗教系プロテスタントの聖職者が、全員この人のようであれば何も問題は起こりません。
信者の側から見た「キリスト教のリアル」・・・たとえば献金額の相場とか、福音派のような新興宗教系プロテスタントには気を付けたほうがいいとか、そういった注意事項をこそ、本当は人々に広く伝えていかなくてはならないことです。
しかし出版不況の現在、そんな本が出る見込みは薄いですし、そのような機能を果たすのは、やはりこのブログしかなさそうです。