2018年5月13日日曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第87話

 溝田牧師のイビキが続く。舞台では第1のチームが、幾分遠慮がちに歌い始めていた。カンカク姉妹が溝田牧師の隣までスタスタ歩いて行って、同じようにカーペットの上に大の字になった(長いスカートのままだったが)。そして「主の臨在の中で憩います!」と言ったきり、静かになった。早々に眠ってしまったらしい(その様子を見ていた他の姉妹が急いで駆けてきて、カンカク姉妹の腰から下にタオルケットを掛けると、また急いで去って行った)。
 他にも何人かの男女が、牧師に倣ってカーペットの上に横になった。壁際に寄りかかって座る者もいた。会堂から出て行く者も何人かいた。
「じゃあ、僕たちもしばらく自由時間にしましょう」
 タタカイ兄弟が言った。
「休んでもいいですし、自由にして下さい。それで出番の30分前になったら、またここに集まりましょう。ところで、メガネ兄弟はどこに行ったんでしょうね」
 キマジメくんもルツ姉妹も、首を傾げるしかなかった。2人とも賛美や祈りに夢中で、まったく周りを見ていなかった。メガネ兄弟が近くにいてもいなくても、いつ消えても、わからなかったに違いない。
 とりあえず、そこで解散となった。ルツ姉妹は他の「旗振り」の姉妹と合流して、何やら話すと、そそくさと舞台袖に消えて行った。タタカイ兄弟は近くの壁に寄りかかって座ると、さっそく聖書を開いた。そしてブツブツ呟きながら、ページを繰るのだった。
 キマジメくんはどうしたものかと思案した。4時間あるなら、家に帰って休むこともできる。少し腹ごしらえするのもいいかもしれない(実は朝ギリギリまで寝ていたので、まだ何も食べていなかった)。あるいはここで、溝田牧師に倣って寝ることもできる。
「主の臨在の中で寝る」というのは、キマジメくんは初めて聞いた。礼拝説教中に寝るのは良くないことだろうけれど、ここで寝るのはそれとは違うのだろうか。あるいはここで寝ると、何か特別な啓示があったり、聖霊の力に満たされたり、癒しや回復があったりするのだろうか?
 キマジメくんは聖書の記述に思いを巡らせた。そう言えばイエス様が、嵐の船の中で居眠りしていた、という話があったはずだ。あれはもしかしたら「主の臨在の中で寝る」ことだったのかもしれない。弟子たちに乞われて目覚めたイエス様は、たった一言で嵐を鎮められた。ということは眠っている最中に、イエス様は聖霊の超自然的な力を蓄えていたのだろうか。
 キマジメくんは4時間後に自分があのステージに立ち、カホンを叩く姿を想像してみた。聖霊に満たされて、力強くカホンを叩く自分の姿を。ルツ姉妹が華麗に旗を振り、タタカイ兄弟がギターをかき鳴らすその横で、自信に溢れてカホンを叩けたら、どれだけ素晴らしいだろうか(何故かその想像の中にメガネ兄弟の居場所はなかったが、キマジメくんは全く気にしなかった)。
 少し思案した結果、キマジメくんは「主の臨在の中で寝る」を実践することにしてみた。しかし溝田牧師やカンカク姉妹のように大胆に寝るのは憚られた。だからタタカイ兄弟のように壁に寄りかかって座り、できるだけ目立たないように小さくなって、キマジメくんは目を閉じるのだった。
 ステージでは第1のチームが遠慮がちな演奏を続けている。その下では牧師のイビキが大きくなったり、小さくなったりを不規則に繰り返している。キマジメくんの瞼はすぐに重くなってきた。やはり寝不足なのだろうか。しかしもしかしたら、主が自分を眠りへと導いているのかもしれない
  そんな考えも含めた何もかもが、急速に、闇の中に吸い込まれていく。心地よい雲か何かに身体が包まれる感覚を最後に、キマジメくんは眠りについた。軽い寝息を立てていたが、誰にも聞こえないくらい小さな寝息だった。
 その眠りの中で、キマジメくんは夢を見た。

 迷路のように入り組んだ建物の中に、キマジメくんはいた。進めど進めど、廊下やドアが続いている。時々教会の信徒とすれ違う。そこは見た目は違うけれど、教会なんだとキマジメくんは思った。
 廊下を右に曲がり、左に曲がり、夢遊病者のようにキマジメくんは進んだ(夢なのだから、夢遊病者という表現は比喩にならないな、と後から思った)。やがて、金色に輝くドアにぶつかった。するとキマジメくんを待っていたかのように、そのドアが開き、中からやはり金色に輝く人たちが、一列になって出てくるのだった。
 キマジメくんは脇に避けた。金色に輝く人たちはキマジメくんを気にする様子もなく、黙って前を見たまま、行進を始めた。髪も金色、肌も金色、服も金色だった。光っているせいか、表情は読み取ることはできなかった。
 後から後から、金色の人たちが出てくる。そしてキマジメくんの目の前を通り過ぎて行く。キマジメくんは夢を見るように(いや、それは夢なのだ)、その金色の行進を眺めていた。
 すると突然、動きがあった。行進の最後尾の1人が、何の前触れもなくクルリと向きを変えて、キマジメくんに襲いかかってきたのだ。あっという間にキマジメくんに馬乗りになり、首を絞める。あまりの素早さに、キマジメくんはどうすることもできなかった。息が詰まり、ジタバタするが逃れられない。ものすごい力だ。助けを求めてあたりを見回したが、金色の人ばかりで、信徒は誰もいない。(誰も見ていないから襲われたんだ)キマジメくんはそう直感した。そうこうしているうちに、意識が遠のいて行き・・・。

 気づくといつもの会堂のカーペットの上にいた。座っていたはずだが、ずり落ちたらしい。身体を「く」の字にして寝ていた。寝過ごしたかもしれないと思って身体を起こしたが、会堂内は目を閉じる前とさして変わらぬ風景だった。真ん中のあたりで寝ているグループがあり、それを取り囲むように、壁際に信徒たちが座っている。座っている信徒の多くは項垂れていたり、上着を頭から被ったりしているから、大半が寝ているようだ。ステージではまだ第1のグループが歌っている。
 時計を見ると、まだ30分ほどしか経っていなかった。キマジメくんは安心すると、また眠くなるのだった。(続く)

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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
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2 件のコメント:

  1. 想像するだけで怖い。だいの大人が男も女も床にあちこちで横たわっていたり寝ていたり演奏する人達もいてなんだか異端のカルト宗教または仏教の修行僧の休憩場に思い描く状況となんら変わりない。気味の悪さはそれをキリスト教的だと思い込み、霊的だと言い張る。。。誰かこの状況が過去日本国にとっても、キリスト教的にも天の御国でも何も変えてないし、何にも変わらない、自己満足でクリスチャンイメージを暗くして伝導しにくい状況にしていると悟らせて。。。

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    1. たしかに奇妙な、異様な光景ですよね。
      おっしゃる通り、やっている本人たちがあくまでこれを「真のキリスト教」と信じ、「霊的」だと疑わないのが、タチの悪いところです。

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