2018年3月22日木曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第82話

 さて日曜日、「50時間の祈りのデモンストレーション」の日となった。
 キマジメくんは昨夜習ったばかりのカホンの叩き方を頭の中で復習しながら、教会へやって来た。初めて叩いたせいか、指の皮が少し剥けている。自転車のハンドルを持つ手が痛い。幸い出血はなく、絆創膏を貼るほどではなかったけれど。
 30分前に着いたが、すでに多くの信徒が集まっていた。会堂のあちこちに固まって、それぞれワイワイ話している。グループごとに今日の準備をしているようだ。
「キマジメ兄弟、こっちです」
 さっそく声が掛かった。見るとルツ姉妹が、ステージの右脇の方で手を振っている。タタカイ兄弟とメガネ兄弟も、すでに来ていた。
 事前に集まることになっていたっけ? キマジメくんは遅刻したのではないかと一瞬焦った。が、そんな連絡はなかったはずだ。
「キマジメ兄弟、おはようございます」
 近づくキマジメくんに、タタカイ兄弟が挨拶してくれた。ルツ姉妹も同様だった。その口調に、咎める気配はない。やはり特別遅くきたわけではなさそうだった。
「おはようございます。皆さん早かったんですね」とキマジメくん。
 すかさずメガネ兄弟が口を挟んできた。
「当たり前でしょう? 50時間の準備の一環なんですよ? 僕なんて2時間以上前に来て、ここで今日のために執り成してましたからね。キマジメ兄弟はたかがカホンとは言え、奏楽奉仕者でしょう。よくこんなギリギリに来られますねえ?」
「べつに早く来ればいいってもんじゃありませんよ」とタタカイ兄弟。「だいいちキマジメ兄弟は昨日、カホンの練習をここで遅くまでしてましたからね。ちゃんと準備してくれましたよ」
「そんなのは当たり前です。奏楽者なんだから」とメガネ兄弟は今度はタタカイ兄弟に向き直った。
「僕は昨夜だって自宅で、執り成しの祈りを2時間捧げましたからね。僕はねえ、祈り出すと、もうあれもこれもと主が示して下さるもんですから、祈りが止まらなくなるんですよ。まあ、それが執り成し手としての油注ぎなんですけどね」
「それだけ執り成して下さったなら、今日のデモンストレーションは安心なんじゃないですか」
 タタカイ兄弟はそれだけ言うと、キマジメくんの方を向いた。メガネ兄弟はまだ何か言いかけた。が、タタカイ兄弟に気にした様子はない。
「キマジメ兄弟、今日は基本的にこの賛美で行こうと思います。全部で4曲です。そんなに難しくないと思いますから、昨日みたいに僕のギターに合わせてくれれば、たぶん大丈夫だと思います」
 そして楽譜を手渡された。4曲とも、知っているものだった。
「カホンを叩いて下さって、ありがとうございます」ルツ姉妹が言う。「おかげで旗が振りやすくなると思います」
 いえいえ・・・とキマジメくんは首を振った。
「ところで、リーダーの件はどうなりましたか、メガネ兄弟?」ルツ姉妹が続けて言った。
 メガネ兄弟は急に顔を背けた。そして明らかに小声になって答えた。
「どうって、今のままですよ」
「じゃあ、タタカイ兄弟がリーダーってことですか?」
「まあ・・・、執り成しのリーダーは僕ですけどね」
「そうですか」とルツ姉妹は心なしか明るい声になった。「じゃあタタカイ兄弟、リーダーをよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」とタタカイ兄弟。「でも、本当は皆がリーダーみたいなものですよ。それぞれ、自分のポジションでリーダーシップを発揮して下さいね」
 それから細かい打ち合わせがあった。
 タタカイ兄弟とキマジメくんが基本的に1時間、奏楽を続ける。演奏するだけか、それとも歌を入れるかは、その時の流れでタタカイ兄弟が判断する(いずれにせよ歌うのはタタカイ兄弟だけだった)。執り成しと旗振りは、それぞれのタイミングで自由に入っていい。初めての試みなのだら、わからないことや失敗することがあってもいい。それぞれ反省材料にすればいい。
 と、いうような取り決めが成された。
 ちょうどそこへ、溝田牧師が現れた。例によってサトリコ姉妹を引き連れている。
「愛する兄弟姉妹、ちょっと早いけれど、はじめましょう」
 牧師はマイクを持つなり、そう言って手を挙げた。
「おーハレルヤバラバラ・・・おーハレルヤバラバラ・・・」
 いきなり「異言」で祈りはじめる。とたんに、会堂中が静まり返った。そして誰からともなく、牧師に合わせて「異言」で祈りはじめた(カンカク姉妹の声が一際大きく聞こえた気がした)。すぐに「異言」の大合唱になった。
 ついで牧師の指示で、楽器の奏楽者たちが登壇した。それぞれ楽器を奏でると、さらなる大音量となる。皆立ち上がり、手を挙げる。皆の「異言」が大きなうねりとなって、会堂を震わせる。もはや自分の声も聞こえないほどだ。
 溝田牧師がマイク越しに絶叫する。
「我々は50時間の祈りに突入します! 神の軍隊よ! 戦いの備えをせよ! ウェイクアップ! ガッズ・アーミー! ウェイクアップ! 今こそ、今こそ鬨の声を上げよ!」
 牧師に応じて、ウォーッという掛け声が上がった。何人かが飛び跳ね、踊り出した。カンカク姉妹が一番高くジャンプした。
 キマジメくんは全身に鳥肌が立った。今までにない「主の臨在」だと感じた。やはり「50時間の祈り」は主の御心なんだ、だからこれほどまで強く働かれるんだ、と。
 いったいどんなすごいが起こるのだろう。キマジメくんはいても立ってもいられなくなり、ハレルヤ!  と大きな声で叫んだ。(続く)
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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
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