2018年2月4日日曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第77話

 1時間ほどで、「旗振り」と「角笛」の奉仕者たちの「指導」は終わった。
  散々怒鳴っていた溝田牧師も、最後は急に笑顔になった。
「みんな〜、よく頑張ったな〜。主が喜んでおられるよ〜」
  まるで別人のような、優しい口調。
  旗振りの姉妹たち(皆10代から20代の若者たちだ)は、それを聞いて泣いたり笑ったりしている。指導がやっと終わって嬉しいのか、旗振りをやり遂げて嬉しいのか、牧師に褒められて嬉しいのか、キマジメくんにはよくわからない。
 角笛の兄弟たち(やはり若者たちだ)も、牧師に肩をポンポン叩かれて、照れ笑いをしている。ずいぶん牧師に絞られていたけれど、大丈夫だろうか。自分もパワーポイントのことやポスターのことでずいぶん怒られてきたから、彼らがどういう気持ちか、だいたい想像できる。
 しかしそんなキマジメくんの心配をよそに、牧師が笑顔で言った。
「さあみんな、互いに愛を表していこう! そして50時間に向けて、更に一致していこう!」
 大きなアーメンが起こって、皆席を離れて握手したりハグしたりしはじめた。
 これだけ見ると、仲の良い大家族に見える。でも何か引っ掛かるものを感じる。いったいこれは何だろう。でもそれが何なのか、この時のキマジメくんにはわからなかった。
(いや、これでいいんだ。だって神の家族なんだから)
 キマジメくんはそう思うことにして、ちょうど近くにきた兄弟とハグをした。顔をよく見なかったので、相手が誰だかわからなかったけれど。

 ハグが落ち着いたところで溝田牧師がマイクを取った。
「よし、じゃあ50時間の祈りの話に入ろう」
 そして信徒たちに着席を促した。
 てっきりこれで終わりだと思ったので、正直ガッカリした。すでにミーティングが始まって、2時間近く経っている。
 しかし牧師は気にした様子もなく、続ける。
「霊的な備えができたところで、こうやって実際的なことを話すのが良いんだ。霊的に高められているから、具体的な部分をより賢く、知恵をもって決めていくことができるから。これこそ、クリスチャンの特権だよ。アダムとエバを見たまえ。彼らははじめ、死ぬことのない身体だった。つまり霊的な存在だったのだ。しかし罪によって、死ぬべき身体となった。つまり肉的な存在となった。これが何を意味するかわかるかな。はじめに霊があり、次に肉がある、ということだ。イエス様も同じだ。霊的な存在だったけれど、受肉された。つまりはじめに霊、そして肉。だから私たちもまず霊的な備えをする。そして、実際的な準備をする。これは、聖書的な流れなんだよ。聖霊の流れと言ってもいい」
 おおっ、という歓声が起こった。あちこちでアーメンが起こる。ハレルヤと泣きながら叫んだのは、姿は見えないけれどカンカク姉妹だろう。
 おそらく今夜か明日の朝には、誰かが今の話をSNSに上げそうだ。何となく、文面が想像できた。
 そんな信徒たちの感動をよそに、溝田牧師は前髪をかき上げて、ふうっと息を吐いた。キマジメくんはなぜかその仕草が妙に気になった。溝田牧師は40代半ばだが、少し若く見える。いや、最近若く見えるようになった、と言った方がいいかもしれない。髪や肌が、以前よりツヤツヤしているのだ(気のせいかもしれないけれど、とキマジメくんは思った)。
「では、50時間の具体的な話をしよう。サトリコ姉妹、プリントを配って」
 牧師の指示を受け、サトリコ姉妹が即座に立ち上がる。そして数人の姉妹と一緒になって、白い紙束を配りはじめた。A4用紙の冊子だ。ホッチキスで簡単に留められている。
 中を見ると大きな表があり、信徒たちの名前がびっしり書き込まれていた。スケジュール表のようだ。
「そこに50時間の祈りの注意事項が書いてある。各自よく読んで、備えるように。また中にスケジュール表があるのを見てほしい。これは50時間の流れと担当者を示したものだ」
 牧師の説明は、こうだった。

・「50時間の祈り」は、1日目の午後6時に始まって、3日目の午後8時に終わる。全部で50時間。
・その50時間を2時間ずつ区切る。つまり全体を25の枠で区切る。
・そのうち、朝、昼、夕の2時間ずつを全体集会とする。これは基本的に全員参加。
・全体集会以外の2時間枠を、4〜5人で構成したチームで順番に担当していく。つまり1チームで2時間祈り、終わったら次のチームと交替する、というのを順次繰り返していく。
・チームは全部で9あるから、各チームの担当枠はだいたい1日1回になる。
・担当でない時間枠は(全体集会を除いて)基本的に自由。ホールで祈り続けても、部屋で休んでも良い。

 要は、全体集会と自分の担当枠だけ責任を持って参加すればいい、ということだった。もしかしたら50時間続けて祈るのかもしれないと思ったので、キマジメくんは正直ホッとした。
「では次のページを見てほしい」
 次のページには、各チームのメンバー構成が載せられていた。キマジメくんは5番目のチームで、タタカイ兄弟と一緒だった。あと例のメガネ兄弟と、旗振りの姉妹が1人いた。全部で4人だ。
「このメンバー構成は、祈り求めつつ決めたものだ。聖霊様の導きと選びによるものだよ。だから聖霊様による一致と、平和が豊かにあるはずだ」
 溝田牧師がやはり笑顔で言う。
 キマジメくんは正直不安だった。この前、タタカイ兄弟とメガネ兄弟が言い合うのを見たばかりだったからだ。なんでこの2人が一緒のチームになったのだろう。彼らはそもそも、性格的に合わない気がする。聖霊様がどのように仲を取り持ってくれるのだろうか。
(でも、神様に不可能はないんだ、とキマジメくんは思い直そうとした。)
「じゃあ今から、それぞれチームに分かれて話し合う時間を持とう」と溝田牧師。
「50時間を一緒に過ごす仲間だから、よく一致して、祈り合って、支え合うように」
 というわけでさっそく、試練の時が来た。皆席を立って、それぞれチームに分かれていく。タタカイ兄弟がキマジメくんのところにやってきた。見るとメガネ兄弟も、仏頂面で近づいてくる。少し遅れて姉妹もやって来た。4人とも無言で集まり、無言で座った。さてどうなるだろうか。(続く)

――――――――――――――――――――――――――――――――
・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
――――――――――――――――――――――――――――――――

4 件のコメント:

  1. もはやキリスト教を名乗るユタ信仰にそっくりである。聖霊様、聖霊様っていうけれど、聖霊の力に信仰を置いた聖霊偶像。キリストの愛よりも聖霊の導き(ユタはこれを判断という。)を愛して偶像化してしまった信徒たち。技を愛する者は罠にかかるってホントだな。

    返信削除
    返信
    1. 沖縄はユタ信仰が混ざったキリスト教プロテスタントが多いと聞きますが、それが本州にも流れてきたのかもしれませんね。

      こういう教会は、聖霊を「人格のあるもの」と言いながら、何かの「波動」みたいに考えているフシもあります。当然ながら、キリスト教からは大きく逸脱しています。

      削除
  2. せんたー世の光教会も似たよーな事沢山してきたな、プレイヤーセンターを建てるために、連鎖祈祷40日とか、連鎖断食40日とか、カルト化するとどーしてもクリエイティブになるよね。牧師が黙って一人で祈ったり、断食したっていいはずだけど、どーしてもみんなを巻き込みたがるのよね。センター世の光教会は甘いもの断食や好物断食などもあったな、今考えてみても何の為の断食か根本がわかってないような気がする。そのたびいちがんとなれるキャッチフレーズが「私たちは選ばれている、選ばれた選民。祈りで戦えー」が合言葉だったよーな。。プレイヤーセンターはおろか、教会は実がなかったなー

    返信削除
    返信
    1. ご指摘の教会は、カルト化教会の話題でよく名前が上げられるところですね。個人的には知らないのですが、お話しを聞く限り、問題が多そうです。

      それにしても、この手の教会は本当にどこも同じようなことをしていますね。連鎖断食とか選民とか、聞き覚えのあるワードばかりなので笑

      削除