2018年2月12日月曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第78話

「では各チーム、祈ってから話し合うように」
 溝田牧師が言う。「それと、各チームのリーダーはもう決めてあるから、はじめに確認するように。チームの一番上に名前のある者がリーダーだ。何か相談や報告がある時は、リーダーが私のところに持って来なさい」
 表を見ると、キマジメくんのチームのリーダーはタタカイ兄弟だった。メガネ兄弟があからさまに顔をしかめた。不満なのだろう。
 信徒らはチームに分かれて座り、それぞれ話し合いをはじめる。見るとカンカク姉妹のチームにはノンビリ兄弟がいた。カンカク姉妹が何やら熱心にまくし立て、ノンビリ兄弟はうんうん頷きながら、メモを取っている。たぶん今夜か明朝には、その話をSNSに投稿するのだろう。なんとなく文面が想像できた。
 さてキマジメくんのチームでは、タタカイ兄弟が司会をはじめた。
「じゃあ皆さん、50時間ではよろしくお願いします。足りない者ですが、僕がこのチームのリーダーを務めさせてもらいます」
 キマジメくんと「旗振り」の姉妹は笑顔で頷く。メガネ兄弟は腕を組んで、ムスッとしたまま別の方を見ている。
「さっそく短く祈りましょう。祈りの姿勢を取って下さい」
 そしてタタカイ兄弟が祈りはじめた。50時間の祝福とか、このチームが集められたことの感謝とか、チームの一致とか、そういう無難な内容だった。淀みなく次々と祈りの言葉が出てくるところが、さすが「牧師の子」だとキマジメくんは思った。
 本人から聞いたわけではないけれど、タタカイ兄弟は将来牧師になりたいらしい。その訓練のため、お父さんの教会を離れてここに来たと、以前聞いたことがある。いわゆるインターンみたいなものか。それがどれくらいの期間なのかは聞いていなかった。いずれどこかの神学校に進むのだろうか。
 タタカイ兄弟の祈りが終わり、目を開けた。だいたいいつものことだけれど、誰かと一緒に祈ると、とたんに親近感がわいてくる。このチームも何となく絆で結ばれたように、キマジメくんは感じた。これも「聖霊が選んだ」チームだからだろうか。
 しかし、メガネ兄弟はそうは思っていないようだ。祈り終わっても、まだ唇を固く結んだまま、タタカイ兄弟を見ようともしない。この前の言い合いをまだ根に持っているのかもしれない。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 それまで黙っていた「旗振り」の姉妹が、丁寧にお辞儀しながら言った。
 彼女はルツ姉妹と言う。キマジメくんは彼女とほとんど話したことがないけれど、コーラスのメンバーなので、よく舞台に立つのを見ている。長い黒髪をぴったり真ん中で分けていて、いつも白のブラウスを着ている(しなやかな材質の、いかにも高価そうなものだ)。背筋がピンと伸びていて、日本舞踊か何かやっていそうな、丁寧で優雅な所作をする。宝塚の女優さんみたいだな、とキマジメくんは以前から思っていた。それでいて表情は穏やかで、優しい印象を受ける。
「50時間では、私は主に旗振りに専念したいと思っています。それでよろしいですか?」
 ルツ姉妹はタタカイ兄弟をまっすぐ見て尋ねる。
「そうですね」タタカイ兄弟は一瞬考えた様子だった。「とりあえず、そうして下さい。でもルツ姉妹は歌う賜物もありますから、もしかしたら歌って頂く場面もあるかもしれません。それは構いませんか?」
 ルツ姉妹は意外にも迷いを見せた。「それはどうでしょう。溝田先生に聞いてみますね」と答えを濁す。
 溝田牧師は「旗振り」の姉妹たちに特別目を掛けている様子だから、もしかしたら「旗振りに専念するように」と、彼女たちに指示したのかもしれない(とキマジメくんは思った)。
 その時はじめて、メガネ兄弟が口を開いた。
「わかってませんね、タタカイ兄弟は」
「はい?」とタタカイ兄弟。
 メガネ兄弟は、黒縁メガネをクイッと上げた。「この50時間の祈りでは、旗振りが重要な役割を担っているのですよ。チーム編成を見てみて下さい。どのチームにも最低1人、旗振りが配置されているでしょう。これは50時間のどの時間帯でも旗が振られるように、と配慮されているからです。だから旗振りは旗振りに専念すればいいんです。そんなこともわからないで、本当にリーダーが務まるのですか、タタカイ兄弟?」
 確かに見回すと、どのチームにも「旗振り」が1人ずつ入っている。キマジメくんははじめて気づいた。ほとんど均等に配置されているから、これは偶然ではなさそうだ。
 ちなみに向こうではカンカク姉妹がまだ熱弁を振るっていて、ノンビリ兄弟はまだ一生懸命メモを取っている。
「でも必ずしも、旗を振り続けることもないでしょう」
 タタカイ兄弟は不思議そうに言う。「振るか振らないかは、その時の流れによるんじゃないですか。それに2時間も振り続けたら、ルツ姉妹が大変でしょう。と言うか現実的に無理だと思いますよ。適度に休みながら、やってもらわないと。だから時々歌ってもらったらいいと思うんですけど」
「なに悠長なこと言ってるんですか?」とメガネ兄弟。「これは戦いなんですよ。疲れるかどうかの問題じゃないんです。日本が解放されるかどうかが掛かっているのに、疲れたからって休むんですか? まったく有り得ない。真剣勝負なんですよ? 犠牲はやむを得ません。それくらいルツ姉妹だって覚悟しているはずでしょう。違いますか?」
 水を向けられたルツ姉妹は一瞬戸惑いを見せたが、姿勢を正すと、「はい」と答えた。「でも、タタカイ兄弟のご配慮にも感謝します。確かに大変じゃないと言えば嘘になりますから・・・、それでも大切な戦いですから、頑張りますね」
「ほらね」とメガネ兄弟。
 タタカイ兄弟はまだ何か言いたそうだったけれど、本人が大丈夫と言っている手前、遠慮したようだった。
「わかりました。でも無理しないで下さいね。じゃあさっそく、役割分担を考えましょうか」
 タタカイ兄弟は自分の小さなノートに目を落とした。「ルツ姉妹は旗振りでいいとして、あとは僕ら3人の役割を考えましょうか」
 メガネ兄弟が真っ先に手を挙げた。「僕は執り成しの祈りをします。執り成しの賜物がありますからね。御霊の促しに従って、執り成しの祈りを捧げます。だから僕専用のマイクを一本、持たせてもらいます」
 メガネ兄弟に「執り成し」の賜物があるとは知らなかった。でも本人がそう言うからには、そうなのだろう。カンカク姉妹と同じタイプということか。
 タタカイ兄弟は黙ってメモしている。
「だからタタカイ兄弟とキマジメ兄弟で、適当に楽器を担当して下さいよ」とメガネ兄弟。「カホンくらいなら叩けるでしょう。簡単そうだから」
 タタカイ兄弟は顔を上げた。「キマジメ兄弟は、何か楽器ができますか?」
 キマジメくんは「いいえ」と即答する。楽器はやったことがない。小学校の時にピアニカを吹いたくらいだ。
「そうですか」とタタカイ兄弟。「では僕は一応ギターが弾けるので、ギターを担当しますね。キマジメ兄弟は、無理に楽器を担当しなくていいですよ。執り成しに回ってもらっても大丈夫です」
「だから執り成しは僕なんですってば」とメガネ兄弟が前のめりになって主張した。「執り成しは1チームに2人も要りません。だからキマジメ兄弟はカホンでも叩いてればいいんです」
「執り成しが2人いたって構いませんよ」とタタカイ兄弟は即座に反論した。「それにこれは、自ら率先して行う奉仕なのですから、本人の意思を尊重すべきです。キマジメ兄弟がどのようにこの50時間の祈りに仕えたいと願うか、そこが一番大切なはずです」
 メガネ兄弟は悔しそうに下を向いた。反論が思いつかなかったのだろう。「でも執り成しは特別な油注ぎなんです」とボソッと言うと、それきり黙ってしまった。
 タタカイ兄弟は改めてキマジメくんを見た。「じゃあどうしましょうか、キマジメ兄弟」
 まさかこういう選択を迫られると思っていなかった。さて、どうすべきだろう。(続く)

――――――――――――――――――――――――――――――――
・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
――――――――――――――――――――――――――――――――

2 件のコメント:

  1. 賜物でなければ、やっちゃいけないのかしら?
    逆に与える賜物がなきゃあ与えてはいけないのかしら?(笑)何か任命されなきゃ奉仕もできないのかしら?誰がその賜物を見抜いて良し悪しの判断くだすのかしら?自由もなければ、自分の意思もない困った大人達ね。。。で、選ばれし者なんでしょう?違う意味で選りすぐりよね。

    返信削除
    返信
    1. 「賜物」=「教会での能力」みたいになっていて、そこに存在意義を見出している人たちがいますね。だから自分のポジションが奪われるのを極端に恐れ、なんとかそれが維持できるように頑張ってしまうという。メガネ兄弟はまさにその典型ですね。

      削除