2018年1月12日金曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第74話

 東照宮での華々しい「勝利」から2日後の水曜日。
 キマジメくんのもとに、溝田牧師からメールが届いた。
「急で申し訳ないが、今夜海外からのゲストを迎えることになった。祈祷会を中止して、特別集会を開く。講師の情報を添付するから、夕方くらいまでにポスターを作ってくれ。テーマは霊の戦いだ。戦いと勝利を連想するものがいい。簡単でいいからよろしく」
 今は午後2時過ぎ。あと数時間しかない。
 でも断るわけにはいかない。まして「できない」なんて言えない。「できない」なんて言ったら間違いなく怒られるだろう。
 キマジメくんはパソコンを立ち上げる間、「異言」でしばらく祈り、聖書をパラパラめくった。エレミヤ書の29章11節が目に留まった。
「あなたがたに対していだいている計画はわたしが知っている」
 神様が、自分に対する計画を全て把握しておられる。そしてこれもその計画の一つなのだ。そう考えると、なんだか勇気がわいてきた。
 それに、日光東照宮から東京を縛ってきた「結界」は、この月曜の夜に解除されたはずだ。あの「格闘の音」が、その何よりの証拠ではないか。だから今、クリスチャンは以前より強く、以前より自由に働けるようになったはずだ。「霊的束縛」から、解放されたのだから。
 それだけでなく、これからますます良いことが起こっていくだろう。もしかしたら「リバイバル」が訪れるかもしれない。
 パソコンが立ち上がったので、キマジメくんは作業を始めた。添付ファイルを開くと、今夜のゲストはグレン・フリント牧師とのこと。髭の白人男性で、年齢は50代くらい。アメリカ人だが今はイスラエルの教会の牧師で、長年ユダヤ人の帰還のために尽力しているらしい。写真で見る限り、温厚そうな顔をしている。
 加工ソフトでフリント牧師の上半身を切り抜いている最中に、またメールが届いた。溝田牧師からの、一斉送信だった。
「愛する兄弟姉妹へ。今夜は祈祷会でなく、特別集会とします。・・・」
 あとは知っている内容だった。
 それから2時間ほどかけて今夜のポスターを完成させ、溝田牧師に送った。何か修正しろと言われるかと思ったが、意外にも「これでいい」という返事。時間的に何度も修正する余裕がないことくらい、牧師もわかっているのだろう。キマジメくんはさっそくポスターを印刷し、教会に向かった。

 夜の7時になった。会堂はすでに信徒でいっぱいになっている。溝田牧師とフリント牧師の姿がないけれど、司会者が話しはじめ、賛美がはじまった。接待係の姉妹がお盆を持って何度か牧師室に出入りしているから、2人とも中にいるのだろう。
 少し離れたところにノンビリ兄弟がいた。賛美に合わせて手拍子をし、足で軽くステップを踏んでいる。珍しい光景だ。そういえばノンビリ兄弟は今日も朝からSNSに御言葉を連投していた。
 賛美が盛り上がってきたところで、牧師室のドアが開いた。溝田牧師に続いて、フリント牧師が出てくる。写真で見たより長身だ。溝田牧師より頭一つ分高い。歩き方がゆっくりで、やはり穏やかな印象を受ける。
 賛美が終わると、溝田牧師が今回の集会の趣旨を語りはじめた。
「皆さん、今日は急な集会になりましたが、これが神の国のペースですから、しっかり付いてくるように。神の国は、絶えず動いているのです。私たちを待ってはくれません。そのペースを知り、従う者を、神は用いられるのです。皆さん、神に用いられたいですか?(アーメンが起こる。)ハレルーヤ! それでこそ神の民です。
 そして今日は、主が絶妙のタイミングで、ゲストをこの教会に送って下さいました。イスラエルで活躍しておられる、グレン・フリント牧師です。(拍手が起こる。)師は霊の戦いにも精通しておられます。ちょうど先週来日されて、この教会の活動を知ったとのことです。なんというタイミングでしょう。これこそ主の導きです。ハレルーヤ!(またアーメンが起こる。)」
 そしてフリント牧師がマイクを取り上げた(例によって溝田牧師が通訳をする)。
「皆さんこんばんは。私はグレン・フリントと申します。この教会の素晴らしい働きを聞いて、やって来ました。皆さんの歓迎を感謝します。(また拍手。)
 実は今週に入ってから、東京の空が解放されつつあるのを感じていました。厚い闇の雲に穴が空き、第3の天が垣間見えたのです。それでこれは何だろうと調べたところ、この教会の、日光での戦いのお話にたどり着きました。そして納得しました。主がこの教会を用いて、東京を解放しようとしておられるのだと!」
 また盛大なアーメンが起こる。カンカク姉妹の声が一番大きかった。
 それからしばらく、フリント牧師の経歴の話になった。彼はもともとアメリカ西海岸で教会を牧会していたが、十数年前、イスラエルのために働くよう神に導かれた。それで教会を後任に委ね、単身イスラエルに渡った。ちょうどそこに彼を迎えてくれる教会があった。彼は正式な招聘を受け、そこの牧師になった。以来、イスラエルの守られることや、世界中のユダヤ人の帰還に尽力してきた、という。
 よほどイスラエルに対する「重荷」があるのだろう。イスラエルのことになると、穏やかなフリント牧師も熱くなった。
「皆さんは、イスラエルに対して憧れを持っておられるのではないでしょうか。イエス様が活動された場所ですから、霊的に高次な場所だと思われるかもしれません。たしかにそういう面もあります。しかし、実態は逆です。今世界中で、イスラエルほど、霊的に圧迫された土地はありません。あそこはいつも重苦しく、憎悪で満ちています。民族が民族に敵対し、争いが止みません。私はイスラエルにいる間、しょっちゅう泣き叫んで、主に祈っています」
 おおっ、という嘆きが起こった。カンカク姉妹が前後に揺れながら、「おーイスラエルに主の憐れみを、主の憐れみを」を泣きながら祈っているのが見える。
 それから、フリント牧師がイスラエルで体験したという不思議の数々が語られた。信徒はみな感嘆し、驚愕し、笑い、泣いた。フリント牧師はさほど表情を変えずに話していたから、もしかしたら溝田牧師の脚色があったのかもしれない。
 さて、話は佳境に入った。フリント牧師はずっとうつむき気味だったけれど、ここへきて顔を上げた。
「皆さん、私は長い間イスラエルで戦ってきました。もちろん血肉による戦いでなく、霊的な戦いをです。そして数年前、主から特別な戦略をいただきました。それが50時間の祈りです。年に数回、私たちは50時間の祈りを行い、主からの解放をいただいています」
 信徒の間にざわめきが起こる。「50時間の祈り」とは初めて聞く言葉だった。どんなものなのか、誰も想像できないのだろう。キマジメくんもそれは同じだった。溝田牧師だけは、冷静な顔で通訳している。事前に聞いていたのかもしれない。
「50時間の祈りとは、預言的アクションの1つでもあります。それはイスラエルで行われていた、50年毎の解放、つまりヨベルの年を表すものです。1年を1時間に見立て、全部で50時間の祈りを私たちは捧げます。そして最後にヨベルの年を宣言します。すると皆さん、大いなる解放が与えられるのです! 私たちはこの方法で、イスラエルを縛る多くの闇を打ち破ってきました!」
 今度はおおっという歓声が起こった。まだ要領を得ないけれど、とにかくすごいことらしい。ヨベルの年というのがいかにもユダヤ的な気がした。
「私は皆さんに、この50時間の祈りをお勧めします。きっと今までになかった解放、今までになかった勝利が与えられます。皆さん、どうぞこの主からの戦略、主からの武器を受け取って下さい」
 また盛大なアーメンが起こる。カンカク姉妹は両手を挙げて「ハレルヤー」と叫んでいる。さっきまで泣いていた気がしたが。
 しかしまだ話は終わっていなかった。フリント牧師は、というより溝田牧師は、険しい表情になった。
「皆さん、単刀直入に言いましょう。日本はまだ縛られています。日光の結界は解けましたが、日本にはまだ5人の巨人たちがいます。家康よりもはるか以前から、この日本に君臨し、人々を歴史的に縛ってきた巨人たちが、いまだ日本を支配しているのです!」
 また嘆きが起こった。今度は悲鳴に近い声も上がった。カンカク姉妹は頭を抱えて、フラフラと左右に揺れている。今にも倒れそうだ。
 今度は溝田牧師が話した。通訳ではない。
「愛する兄弟姉妹、私たちはこの5人の巨人たちを打ち破っていかねばなりません。今度は東京でなく、日本を解放するのです! 皆さん身を引き締め、しっかり立って下さい。そして50時間の祈りに備えましょう!」
 もちろんアーメンが起こったけれど、また大変なことになりそうだと、キマジメくんは思った。(続く)

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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
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4 件のコメント:

  1. ヨベルの年の規定から派生して「50時間の祈り」という発想をこねくり出すんですね。
    ちっとも意味が分かりません( ´△`)
    そんなのがアリならなんとでも言えますよね。

    ユダヤ的な意味や文脈、文化背景を知ることがいけない訳ではないでしょうけれど、恣意的に、自説や持論の根拠づけのためユダヤ的な意味合いを使うのがおかしいと私は思います。

    以前、預言カフェの記事のコメントで名前を書きましたが、自称使徒のひとりも似たような自説を展開しています。ご参考までに。

    http://www.arise5.com/faqs/?include_category=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E

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    1. おっしゃる通り、なんでもアリなのがこの手の教会ですね。どんな珍説、奇説もリーダーが語ればリアルになってしまいます。その延長線上にユダヤ傾倒もあります。ユダヤ人やユダヤ文化を利用しているだけなのですが。

      リンク先を紹介して下さりありがとうございます。ここは預言カフェをバックアップしている教会(団体?)ですね。ちょっと見ましたけど、予想通り、痛い自説を展開していました(笑)。

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  2. 5人の巨人って誰よ?
    霊の世界っていつも確証がないので言ったもん勝ちみたいで永遠にエンドレス。
    以前の教会でもレビアタンだのなんだのといつ打ち勝ったのか負けたのか誰も責任もって言ってはくれないし、それに伴う明確な実も見えない。いつも何かにこじつけて証や実にしていたが、はたしてそれがこの勝利の結果・代償なのかだれも反論ができないのがこの世界。それにほとほと疲れてそこをでたけどね。。。沖縄も東京もやってること一緒だったとは これまた唖然。。。

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    1. レビアタンを言う教会もありますね。他にもゴリアテとか、ネプチューンとか、いろいろ出てきます。おっしゃる通り、言ったもん勝ちです。勝ったかどうかもはっきりしません。「霊の戦い」には関わらないのが一番です。

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