2017年11月29日水曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第68話

「ではみんな、しばらく祈ろう」
 溝田牧師はそう言うと、上着のポケットに両手を突っ込んで、左右へうろうろ歩き始めた。
「おー主よ、シャバラバラバラ・・・」
 牧師は右の端まで歩くと、向きを変えて左の端まで歩く。しかし拝殿前に20人が立っているため、ほとんど余裕がない。歩くたび信徒の誰かにぶつかる。だが牧師は全く気にする様子もなく、平気でドンドンぶつかりながら祈っている。お前たちが避けろと言わんばかりだ。結局、信徒の方が気を遣って、ギュウギュウ押し合って、何とか自分の居場所を確保する羽目になった。
 カンカク姉妹も「祈り手」の出番ということで気が大きくなったのか、かまわず両手を広げてバラバラ祈っている。手が信徒にぶつかっても気にしていない様子だ。
 拝殿のある小山の頂上は、星明かりだけで、ほとんど真っ暗だ。隣の人の顔もよく見えない。音もない。皆の「異言」の祈りと、拝殿の向こうの小川の音がわずかに聞こえてくる。先ほど牧師が「水の悪霊」と言ったこともあってか、キマジメくんにはどうも水の音が不気味に聞こえた。
「よし、では戦いの祈りだ」溝田牧師が言う。「ここを支配するのが水に関係した悪霊なのかどうか、まだわからないけれど、十字架の血潮には全てを覆う力がある。血潮こそ鍵だ。だから血潮を大胆に宣言していこう。我々には圧倒的勝利が約束されているのだから」
 すかさずカンカク姉妹が口を開く。
「今祈っていたら、羊が見えました。緑の牧場に伏す羊たちです。見ると柵の外に、真っ黒な狼たちが迫っていました。羊たちを狙っているのです。でもそこに、長い杖を持った羊飼いがやってきました。そして羊飼いが杖を振りかざすと、狼たちは怖気付いて、逃げていきました。・・・そういう幻でした」
「うん、それはこの戦いを象徴する幻だな」牧師が答える。「今、私に瞬時にその『解き明かし』が与えられた。牧場の羊たちは私たちだ。狼たちはこの土地を縛る悪霊だ。そして杖を持った羊飼いは主だ。主が杖を振りかざすと、狼たちは退散しなければならない。・・・よし、わかったぞ。今私たちは霊的な『杖』を振りかざして祈るのだ。それが今夜、主から与えられた戦略だ」
 カンカク姉妹が両手を高く挙げ、アーメン、ハレルヤと嬉しそうに叫んだ。
 今溝田牧師が言った「解き明かし」なら、キマジメくんもそうではないかと思った。羊が自分たちで、狼が悪霊で、羊飼いが主というのは、割と単純な解釈ではないだろうか。いや、しかしこれは自分にも霊的洞察が与えられたということかもしれない。誰も聖霊によらなければ悟ることができない、みたいなことも聖書に書いてある。そうだ、きっとそうに違いない。

「このあたりに、杖の代わりになるものはないか?」
 牧師がそう言うと、皆あたりを見回した。暗いとは言え、まわりは木々である。折れた枝が簡単に何本か見つかった。何人かの信徒が、それぞれ長めの切れ枝を牧師に差し出した。
「うん、これがいいな」
 溝田牧師はその中から比較的まっすぐな枝を選んだ。長さは1メートルくらいか。太さはあるが、杖と言うには少し短い。
「みんな、これは『預言的アクション』だ。この杖そのものはただの枝で、特別な力はない。しかし預言的に示された戦略に従うことで、主の御業が解放されるんだ。この場合は『杖を振りかざす』というのが『預言的アクション』になる」
「アーメン」とカンカク姉妹。「紅海を分けたモーセの杖のようです。今、すべての障害物が私たちの目の前で左右に分かれていくと、主が語っておられます!」
「おー主よ」牧師はさっそく祈り始めた。「今、あなたに示された預言に従い、この杖を振りかざして、主の御名によって宣言します。このところを縛る悪霊よ、長きに渡ってこの地を縛ってきた悪霊よ、邪悪なる闇の世界の者よ、退くように!」
 皆アーメンと言う(カンカク姉妹の声が一番大きかった)。
「牧場に侵入しようとする悪霊よ! お前に命じる! 今、退け!」
 牧師が片手で杖を高く振り上げた。そしてもう一方の手でこぶしを作り、やはり振り上げた。「イヤァッ! 主の勝利!」
 ひときわ大きなアーメンが起こった(やはりカンカク姉妹の声が一番大きかった)。
 その後もしばらく牧師の「宣言」が続いた。皆それに合わせてアーメンとかハレルヤとか、歓声を上げる。人気がなく、誰かに聞かれる心配もなさそうだから、皆声を出していいと思ったのだろう。教会の中とあまり変わらない音量になってきた。
 ところで拝殿の方には、特に変わった様子はなかった。勝利を宣言されて、悪霊の側に何か動きがあるのではないかと、キマジメくんはずっと拝殿の方を見ていた。今にも信徒の誰かが悪魔に憑依か何かされて、おぞましい形相になって、襲い掛かってくるのではないか・・・そんな想像をしていた。しかし、何も起こらなかった。拝殿は闇の向こうにぼんやり浮かんだままだ。
「よし、じゃあ最後にきよめの祈りだ」
 牧師が何かポケットから取り出した。よく見えないが、小さい物だ。
「これはイスラエルから取り寄せたオリーブオイルだ。主の油注ぎの象徴だよ。これを神社の四隅に降りかけて、このところのきよめを宣言する。悪霊が退いている今のうちに、きよめるんだ。でないと、以前よりもっと悪い悪霊が来るかもしれない。聖書にもそう書いてある」
「アーメン」とカンカク姉妹。「さっきまでの圧迫感が、今はウソのようになくなりました。今がきよめのチャンスです」
「みんな、助祷を頼む」
 そう言うと、溝田牧師はまず拝殿の右奥に向かって、木々に挟まれた狭いスペースを進んでいった。枝や落ち葉をパキパキ踏みならす音が聞こえてくる。そして声が聞こえてきた。
「おー主よ、このところにあなたの油を注ぎます。そしてきよめを宣言します。主の御名によって」
 牧師は同様に拝殿の左奥、左手前、右手前と油を注いだ。これで四隅だ。
「よし、これで第一段階は成し遂げた」牧師は得意げに言う。「あとはこの神社についてリサーチして、敵の種類を特定するんだ。そうすれば完全に縛ることができるだろう。一週間かけてリサーチして、来週もう一度、ここに来よう」
 カンカク姉妹が言う。「確かにまだ、邪悪な気配が残っています。それにやっぱり、あの川の音が、どうも気になります・・・」
「うん、あの川との関連も調べてみないとな。悪霊と水は、古来より繋がりがあると言われているんだ。この神社と川の位置関係は、もしかしたら巧妙に仕組まれたものかもしれない」
 溝田牧師はそう言うとしばらく黙った。小川の音だけが聞こえる。キマジメくんはもう一度あたりを見回した。やはり、どこも変わった様子はない。
「ではみんな、教会に戻ろう」
 その一言で、心なしか空気が軽くなった気がした。皆終わってホッとしたのかもしれない。言葉少なく、ゾロゾロ階段を下りていく。カンカク姉妹だけが、おー主よとかバラバラとか祈り続けていた。
 こうして、第一回目の「霊の戦い」は終わった。(続く)
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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
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15 件のコメント:

  1. 瞬時の解き明かしキター!(*⁰▿⁰*)
    主から与えられた戦略キター!(*⁰▿⁰*)
    預言的アクションキター!(*⁰▿⁰*)
    オリーブオイルによる清めキター!(*⁰▿⁰*)
    リサーチして敵の種類特定キター!(*⁰▿⁰*)
    ハレルヤー!(*⁰▿⁰*)
    Fuck

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    1. いろいろお約束が来ましたね笑

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    2. これから、さらにお約束の波が来ることを思うとヤバイですね(笑)
      キマジメ君が完結した際には、是非、いのちのことば社から出版してもらいましょう!^_−☆

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    3. お約束なことを書くのもけっこう恥ずかしいものですね。いつもアチャーと思いながら書いています笑

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  2. ついにオリーブオイルが…!!
    面白くて面白くて笑ってしまうんですけれど、実際本当に油を撒く事件があったのと、きっとこんな感じだったのかなぁと想像がつきます。リアルですね…。

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    1. 以前も書いたと思いますが、例の「寺社油まき事件」は本当に氷山の一角ですね。少なくない数の教会が、キマジメくんの教会みたいに「霊の戦い」に参戦して、夜な夜な神社仏閣で奇声を発したり、油をまいたりしてきました。あの事件があって以来、多少は自粛するようになったかもしれませんが、基本的な発想は変わっていないでしょうね。

      この話はだいぶ脚色して、バカバカしくしていますが、基本的に私の実体験です。リアルに感じていただければ幸い(?)です。

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  3. 待ってました。この展開は来るとわかっていてもウケますよ。霊的戦いのうさんくささが最高です。ご馳走さまでした。

    さあ、守りの祈りをしないと、戦い後には敵の攻撃がありますよ〜。ゴホゴホ…体調が変だ…ゴホゴホ…もしかしてとりなし手の私に悪魔の攻撃!?みたいなことを言い出す人を見たことがあります。(あきれ顔)

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    1. ありがとうございます。
      本当に胡散臭いですよね。私も書いていて何度も恥ずかしくなりました笑
      展開としてはものすごくベタなんですが、これが現実なので、(多少脚色していますが)ありのまま書こうと努めました。

      今後、さらに胡散臭くなっていくと思いますが・・・笑

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  4. カンカク姉妹がうさんくさいのなんのって。ご本人は自分は聖なる戦いをしていると硬く思い込んでおられるのかもしれませんが、、、。

    悪霊の種類?というのも、主張する方々がいてはりますね。貧困の霊とか、おしの霊とかを聞いたことがあります。
    聖書のどこにそんなことが書かれているのか、不勉強な私は知らないです。

    キマジメ君の今回のストーリーを読ませていただいて、改めて思いました。
    RPGごっこですね。

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    1. カンカク姉妹はこの手の「勘違いさん」の典型をイメージして書いています。
      ただ彼女の場合、ウソをつこうとか、人を騙そうとか、そういう意図はありません。本気で「聖なる戦い」をしていると思っているし、「神に語られている」と思っています。自分のことを「特別な祈り手」と信じています。その意味では、まっすぐと言うか、扱いやすい面もある人ですね。

      一方で溝田牧師は明らかに悪意を孕んでいるので、実はカンカク姉妹とは正反対な立場です。でも「霊の戦いをでっちあげる」という共通の目的があるので、カンカク姉妹をうまく利用している、というわけですね。

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  5. 【第68話の解説】

    今回のお話では、「霊の戦い」の現状を描いています。「戦い」のポイントは以下の通りです。

    ・敵の種類を「霊的洞察」で特定する。
    ・聖書の言葉から「戦略」を得る。
    ・「戦略」に従って「預言的アクション」をする。
    ・「勝利」を宣言する。
    ・「きよめの油」を注ぐ。
    ・ハレルヤ三唱。

    教会によっていろいろ細かい差異はあるでしょうが、基本的な流れはこれだと思います。もちろんどれも、聖書的根拠があるわけではありません。一つのムーヴメントみたいなものですね。

    もう1つ注目して頂きたいのは、牧師が祈りながら歩き回り、信徒にぶつかっても気にしない、という描写です。こういう牧師が多いのか少ないのかわかりませんけれど、平気で人にぶつかったり、どかしたりします。
    事例を挙げると、信徒どうしで話している時、割り込んできて、一方の信徒を体で押しのける。野外礼拝の際、信徒が持ってきた自前の椅子に勝手に座って、譲らない。ミーティングの際、足を組んで座り、その足が隣の信徒にぶつかっていても気にしない。信徒が持ってきたパソコンを我が物顔で使う。などなど。
    図々しいにも程があるだろと思ったことが多々ありますので、今回登場させてみました。

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  6. しかしこのカンカク姉妹、相当の電波ですねえ。祈っていて見たとか聞いたとか。
    昔からシャーマンは女性が多く、「祈っていて神様の声が聞こえるようになりました」みたいな人がほとんどです。きっとカンカク姉妹も、若いころから信心深く、キリスト教に出会う前は、今はやりの表現でいう「パワースポット」に行きまくった人生だったんじゃないでしょうかね。
    それこそ朱印帳にあちこちの神社仏閣の御朱印集めて悦に入っていた時期もあったものと思われます。
    パワースポット好きとか御朱印集めが趣味とか言っているうちはかわいいものなのですが、これが高じて神様のお声が聞こえるようになり、カンカク姉妹のように新興宗教に足を踏み入れてしまうリスクが・・・(苦笑)。

    私がカンカク姉妹の友人や身内なら、きっと彼女をたきつけてこういいます。
    「あなた、信者の側でやっていても意味ないわよ。だって今いくら献金してるの?えっ、収入の一割ですって?!そりゃすごいわ・・・ねえ、悪いことはいわないわ、宗教信じる側じゃなくてやる側にならない?収入の一割払う側から、受け取る側になるのよ。あなた神の声が聞こえるようになったんでしょ?それなら宗教やる側にならなくてどうするの!あなたは神から特別に選ばれたお方なんだから、末端信者Aなんてやってる場合じゃないでしょ。あなたが教祖にならなきゃ誰がなるの?だって世界が滅ぶんですよ世界が。世界を救うために、さあ、新興宗教やりましょ!私がマネージャー兼任金庫番やったげるわ」

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    1. カンカク姉妹の背景をいろいろ語っておられますが、そういう想像をして何の意味があるのか、全然わかりませんね。

      ちなみにこういう姉妹を焚き付けて新興宗教を始めるというのは、何かの冗談でしょうか? 冗談だとしても全然笑えませんが。

      不快な書き込みは今後やめていただきたいと思います。よろしくお願いします。

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  7. 登場人物みんなやられてるー

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