2017年9月27日水曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第61話

 そんなこんなで「メボ・ルンド師の癒しとミラクルの大聖会・2014」は幕を閉じた。
 最後の賛美が終わり、溝田牧師が高らかに頌栄を唱えると、会場中からアーメンが起こった。そして緩やかなBGMが流れる中、信徒らは帰り支度をしたり、そのまま歓談をはじめたり、ルンド師のもとに駆け寄って黄色い声援を送ったりしだす。キマジメくんはパソコンを終了し、隣の音響係の青年に挨拶すると、ホッと一息ついた。
 例の4人組はやや急いだ様子で荷物をまとめると、あれこれ話しながら、そのまま会堂を出て行くのだった。「いやー今日もすごい癒しと奇跡が起こりましたな」「ハレルヤ」「恵まれましたなあ」「助祷した甲斐があったってもんです」
 どんな「癒し」や奇跡が起こったのか、正直キマジメくんにはわからなかった。あの老婦人は結局来たときと同じ様子で帰って行ったではないか。祈られた信徒たちは全員、見てわかるような病気やケガなどなかったのだから、そもそも「癒し」の効果などわからない。あの、突然腹痛を起こしたと思ったら急に回復したという男だけが、見てわかる「癒し」だった。
 しかし正直なところ、あの腹痛男はものすごく怪しいとキマジメくんは思っていた。いかにも茶番みたいだったからだ。でもクリスチャンともあろう人間が、そんな大それたことをするだろうか。神にあって良心があるのではないだろうか。偽りを憎む心があるのではないだろうか。こうやって教会に来て、神を礼拝し、祈りを捧げ、賛美を捧げる人間がそんなことをするとは、キマジメくんには考えられなかった。それにそうやって人を疑う自分自身が良くないように思えた。神様は真実な方のはずだ。
 とはいえ、やや品のない笑顔で会堂を出て行くその腹痛男を見ていると、やはり何とも言えないモヤモヤが、湧き上がってくるのだった。
「皆さん、最後にお知らせがあります」
 マイク越しに溝田牧師の声が響いた。会堂は騒がしいままだが、牧師はかまわず続ける。
「皆さん、ルンド先生のミニストリーによって癒されたという報告が沢山きています。ハレルヤ! ですのでここで、いくつか簡単に紹介させていただきたいと思います。皆さんそのままで聞いて下さい」
 会衆からにわかに拍手が起こった。まだ話している人もいるけれど、ほとんどがステージに目を向ける。ステージ上には、既に何人かの兄弟姉妹たちが並んで立っている。
 1人目がマイクを取った。
「ハレルヤ! 私は今日朝からずっと頭痛があったのですが、先生に触れられたとたん、すっかり治ってしまいました! 癒しを感謝します!」
 拍手。次の人。
「自分は腰痛持ちなんですが、ルンド先生に宣言してもらった時から少し楽になった気がします。感謝します」
 拍手。次の人。
「めまいがあって大変だったんですが、先生に手を置いてもらったら良くなりました」
 拍手。次の人。
「高血圧があって、高い時は脈が強く触れるのでわかるんですが、ルンド先生に祈っていただいてから、脈が弱くなったように思います。このまま続いてくれればいいんですが。とにかく感謝します」
 拍手。あと何人かいたけれど、どれも同じような話だった。
 溝田牧師がまとめる。「皆さん、我らの主は今日も生きておられますね! そして素晴らしい癒しの数々を現して下さいました! 私たちはその証人です。これからも主の癒しを、高らかに宣言していきましょう! アーメン!」
 アーメン、という応答が会堂中から起こる。
「では最後にもう一度、こうやって労して下さったメボ・ルンド先生に大きな拍手で感謝を表しましょう!」
 また拍手が起こった。口笛や歓声も上がる。ルンド師はゆっくり立ち上がり、会衆に向かって一礼した。そして笑顔で手を振る。
 拍手はしばらく鳴り止まなかった。
 キマジメくんは何とも言えない気分のまま、ブースから降りた。ルンド師がアメリカで行ったという数々の奇跡的な「癒し」を思い返していた。見えるようになった盲人。歩けるようになった車椅子の人。癌が完治した人。半身不随から完全に回復した人。どれも奇跡としか考えられない。ではなぜ今日、そういう奇跡が起こらなかったのだろうか。やはり日本は、まだまだ「霊的に」問題があるのだろうか。溝田牧師がいつも言うように、闇の勢力(悪霊のこと)が日本中を覆っていて、そのせいで「神の国」が阻まれているのだろうか。
 だとしたらもっと沢山祈らなければならないし、戦わなければならないだろう。そして日本を解放していかなければならない。キマジメくんは不意に暗澹なる思いになった。しかしちょうどその時、受付係の姉妹から声を掛けられた。
「キマジメくん、さっきはどうもありがとうね。助かったわー」
 酸素吸入の老婦人の件を言っているのだろう。キマジメは「いいえ」とだけ応えた。人に押し付けたくせに、と思ったけれど、それは言わないでおく。
「ところでさっきのおじさんたちのこと、聞いた?」と受付係。
「え、何ですか」
「あの4人組のこと。あの人たちね、あちこちでルンド先生の集会に参加しては、同じようなことしてるらしいわよ」
「同じようなこと?」
「そう。あの腹痛とか。急に具合が悪くなったとか言って、必ず祈ってもらうんですって」
「ええっ、やらせってことですか?」
「どうもそうらしいわよ」
 それを聞いたキマジメくんは、別の意味で暗澹なる思いになるのだった。(続く)


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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
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