「最善の家系、最悪の家系」にみられる「繁栄の神学」的考え方。

2016年3月22日火曜日

繁栄の神学の問題

t f B! P L
 いただいたコメントで初めて知った、「最善の家系、最悪の家系」の話について。

 これは大変興味深い。要約すると、ある人の生き方が子孫にどういう影響を与えるか、という研究をアメリカの社会学者(詳細不明)が行った。彼が選んだのは、渡米してきた以下の2人の人物。

■ジョナサン・エドワード
 牧師・神学者。
 イギリスからの移民。
 のちにプリンストン大学の学長になった。

■マックス・ジュークス
 職業不明(クリスチャンではない)。
 オランダからの移民。
 大酒飲みの乱暴者。

 この2人の子孫を追跡調査した結果、ジョナサンの家系からは議員とか学者とか医師とか弁護士とか軍人とか副大統領とかが出た。
 マックスの家系からは受刑者や先天異常やホームレスが沢山出た。つまり親の影響を子孫はモロに受ける、という結果が出たとのこと。

 この研究をどこかで見つけたらしいクリスチャンの方々が、 神様を信じる者には恵みが代々施され、そうでない者にはその咎の報いが三代、四代にまで及ぶ、という聖句(出エジプト20章5~6節)はその通りだったね! みたいなことを言っている。

 へえ。

 これを見てまず私がしたのは、これがどこの誰がした研究で、他のどんな結果があるのか、調べることだった。
 でもこれに該当する研究は、少なくとも日本語のネット上では見つけられなかった。その学者もジョナサンもマックスも詳細はわからなかった。わかったのは「マッドマックス 怒りのデスロード」がアカデミー賞を受賞したことくらいだ(関係ねー)。
 それで英語で検索したらこういうページがあった。 要は、「この話は都市伝説の域を出ていない」ということ。

 なんだよそれ。

 でもとりあえず話を続けたいので、この2人の顛末も研究も事実だと仮定する。すると、まともな社会学研究であるなら、まさか研究対象者が2人だけってことはないってことになる。他にも対象者が大勢いたはずで、いろいろな結果が出たはずで、その中で標準偏差が出されたはずだ。私は真剣にそっちを見たかった。

 またこの2人が家系的にまったく違う結果を出したのが事実だとして、まあそういうことは世々常にある。全然珍しいことではない。
  それより私が疑問に思うのは、なぜこの対極的な2人の結果「だけ」が取り上げられているのか、ということ。あまりに対極過ぎて、その結果の差の大きさが、必然的なものと考えられる。出発点が違いすぎて、神様の介入の有無を明確には断言できないと思うのだ。

 もし「神様の明確な介入」を証明したいのであれば、もっと中流で庶民的な、あまり差異がなさそうに見える人たちを選んだ方がいいと思う。つまり「大学の学長」と「酒飲み」を比較するのでなく、同じような境遇のサラリーマンの家系を100組くらいランダムに選んで、調査してみるのだ。その中には当然クリスチャンを入れておく。

 それで、クリスチャンがいた複数の家系と、そうでない複数の家系とで、子孫の「出来栄え」を比較してみる。その差が歴然なら、はれてクリスチャンであることのメリットが証明されたことになる。
 そういう研究なら意味があると思う。たった2人だけじゃなくて。
 
 ジョナサンとマックスの話に戻ると、これはクリスチャンかどうかに関係なく普遍的にみられる現象だ。つまり金持ちの子供は金持ちになりやすく、教育水準の高い家庭の子供は教育水準が高くなりやすい。また特にアメリカなら経済状態によって住む場所がまとまる傾向があるから、良い住環境も子供に引き継がれやすい。貧困家庭の子供が医師や弁護士を目指すのは、裕福な家庭のそれに比べて相当困難で、ほとんど無理ゲーの域だ。
 だから親のステータスが子孫の動向に強く影響するのは間違いない。またその「差」が、「大学の学長」と「酒飲み」とで大きくなるのは当然と言えば当然である(必ずそうなるという話ではない)。少なくとも、「はっきり神の祝福だ」とは言えない。

 もしはっきり「神の祝福だ」と言いたいなら、むしろ2人の境遇が逆だった方が良い。つまり酒飲みの乱暴者だったマックスの子供が、ひどい家庭環境の中で神様を信じ、クリスチャンになって、苦学の末に牧師なり宣教師なりになって生涯を慈善事業に捧げた、みたいなストーリーの方が、神の恵みと言いやすい。

 貧困は連鎖するうえ、貧困ゆえにいろいろな機会を逃しやすい。可能性も狭められていく。だから貧困になるんだという短絡的な話ではないけれど、実情としてすごく厳しいものがある。でもだからこそ余計に、「そういう状況でも神様を信じたらこんなチャンスを得た」みたいな話は受けるんじゃないかと思う。

 と、いうようなことを私は考えた。そしてその結果至った結論はこれ。

 この2人の話は家系云々の研究じゃなく、ただの「繁栄の神学」でしょ。

  つまり、神様を信じてれば代々医師とか弁護士とか副大統領とかを排出できる家系になって、繁栄できるよ? 富と名声を得られるよ? でも信じてないと不幸になって犯罪者とか貧困になっちゃうよ? それでもいいの? その実例がジョナサンとマックスなんだよ? みたいな話。

  でも、人生は「繁栄の神学」じゃないんだよ。もちろん繁栄できたら嬉しいけど、そうなるとは限らないんだよ。クリスチャンだからという理由でそれを期待できる、なんて聖書には書いてないんだよ。

 それにそもそも、こういう都市伝説的な話をガチの研究結果と断定して話を進めてしまうのもどうなの。ちょっとはソースを調べておかないと、インチキになっちゃうよ。と私は言いたい。

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