2015年2月17日火曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第52話

「よし、じゃあリハーサルを始めよう」
 溝田牧師の一声に、賛美チームのおそらく全員が「はい」と返事する。そして駆け足でそれぞれのポジションに付き、自分の楽器やマイクの準備を始めた。

 溝田牧師は会堂の中央あたりの席にドカッと腰を下ろし、サトリコ姉妹に「水」と指示し、PAの方に向かって「マイク」と指示する。音響の担当者が弾かれたように小走りでマイクを持ってくる。サトリコ姉妹はお盆にグラスを載せてやってきた。
「じゃ、順番通りに始めて」
 水を一口飲んだ牧師が言う。賛美リーダーの姉妹が「はい」と応え、ドラムのカウントとともに賛美が始まった。しかし最初のAメロが終わらないうちに牧師が制止した。
「あのさ、キマジメくん」と牧師。
 キマジメくんはドキッとしながら返事する。「は、はい」
「リハーサルなんだからさ、ちゃんとスクリーンに歌詞出してよね。ここで歌詞のチェックだってしてるんだからさ」
「あ、すみません」
 キマジメくんはバタバタとパソコンを操作し、またドラムのカウントが入り、賛美が始まった。しかしまたAメロが終わらないうちに制止された。
「あのさ、なに暗い顔で賛美してんの? これ、癒しの集会なんだよ? もっと希望に溢れた顔しなきゃダメじゃん。葬式じゃないんだからさ。これじゃ来た人だれも癒されるなんて思えないよ」
「はい、すみません」
「イメージと雰囲気が大事なんだよ、こういう集会は」と溝田牧師。「一人一人の出す雰囲気が全体の雰囲気になるんだよ。だからもっと笑ってくれないと」
「はい」と賛美チーム一同。
 それでまたドラムのカウントが入り、賛美が始まった。

 その後もいろいろケチが入りながらリハサールは進行し、1時間弱かかった。最後はそれまでの文句がウソだったみたいに「みんな最高に良かったよ~。本番は主だけ見上げれば大丈夫だよ~」と賛美チームを褒めちぎる。皆そこでやっと安堵の表情を浮かべた。キマジメくんはキーボードに張り付けていた指をようやく離した。手が汗で濡れ、かすかに震えていた。
 牧師がまた口を開いた。「さ、集会まであと1時間切った。もう人が来るかもしれないから、全員で会堂内をチェックして。ゴミとかあったら拾っといて。僕はそろそろルンド先生を迎えに行くから。よろしく」
 それで溝田牧師が会堂を出て行くと、キマジメくんはようやく一息つけた。心底安心している自分自身を感じながら、この安心感はいったい何なのだろうと考える。神の器である牧師と一緒にいる方が安心できるはずなのに、実際は逆になっているのではないだろうか。ということは、自分に何か問題があるのだろうか。まだまだ悔い改めて、変えられていく余地があるのではないだろうか。
 パソコンの画面をぼんやり眺めながら、キマジメくんはしばしそんなことを考えた。

 30分程で、溝田牧師がルンド先生を連れて戻ってきた。メボ・ルンド先生は長い髪をふんわりしたオールバックにし、てかてか光る真っ白のスーツで身を固めている。顔もなんとなく白くて、どうやら化粧を薄くしているようだ(化粧の知識ゼロのキマジメくんにもそれとわかった)。脇に大判の聖書を抱えてゆっくり歩く姿は、自然と注目を集める。長身なのも影響しているだろう。
 ルンド師は会堂に入ってくると、「ミナサン、コンニチワ」と片言な日本語で言った。

 そのまま牧師室に入っていくルンド師を見ながら、やはり世界規模で働く神の器は違うな、とキマジメくんは思った。今日はいったいどんな癒しの業が行われるのだろうか。
 集会まであと30分。(続く)

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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
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