2015年1月14日水曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第51話

 さて、ついに『メボ・ルンド聖会』当日となった。
 
 教会は朝から大忙しである。スタッフらは皆正装で、それぞれ持ち場の準備に余念がない。溝田牧師がいつ姿を現すかわからないけれど、それまでに滞りなく終わっていないといけない気がして、皆緊張の面持ちである。
 
 キマジメくんもスクリーンに映るプロジェクターの画面を見ながら、歪みのない、左右の高低差もない長方形になるよう微調整していた。
 実は以前、同じようなシチュエーションで、「スクリーンの画面が曲がってるぞ」と牧師から執拗に注意されたことがあった。どう見ても曲がっているようには見えなかったけれど、椅子にふんぞり返った牧師の言うままに、プロジェクターを右にずらしたり左にずらしたりを延々30分くらい続けた。ついに「これでいいか」と牧師が言ってその作業は終わったけれど、結局作業前後で何が変わったのか、キマジメくんにはわからなかった。
「クリスチャンはどの分野でもプロにならなければならない。それが主の御心だ」と溝田牧師は言っていたけれど、プロジェクター設置のプロがどんなものなのかもキマジメくんには全然わからなかった。
 
 という訳で今日もプロジェクターと格闘したのだけれど、案外スムースに納得のいく表示になった。遠くから注意して見てみたけれど、歪みはないようだ。それで一安心したところで溝田牧師が現れた。「よしみんな、準備の手はいったん置いて祈ろう」

 その号令に従って皆が集まる。「輪になって」という指示の通り、皆で一つの輪を作る。「手を繋いで」と言われて手を繋ぐ。会堂の内壁に沿って大きな輪ができた。
「よし、じゃあ今日の『メボ・ルンド聖会』に主の大いなる打ち破りが起こるように祈ろう。癒しは主の御業だから、悪霊たちも嫌がる。だからどんな妨害をしてくるかわからない。私たちは身を引き締め、目を覚まして祈っていなければならない」
 牧師がよく通る声で言うと、「アーメン」と何人かが言う。そこで牧師の動きが止まった。
「今アーメンと言った者以外はアーメンじゃないのか? 同意できない者がいるということか? そんなことで主の兵士と言えるのか!?」
 牧師が早口でまくしたてる。慌ててそれに「アーメン」と言ってしまった人が複数いて、ほぼ同時に「あっ」という顔をして口をつぐんだ。
「それが目覚めていないということだ!」牧師が怒鳴る。「教会よ目覚めよ! 主の御名によって!」そして一人で異言で祈りだした。
 キマジメくんはどうしたらいいかわからなかった。他のスタッフらも同じようで、互いにチラチラ見合っている。しかしその中の何人かが牧師に続いて異言で祈り出すと、他のスタッフもそれに続いた。結局全員で異言の大合唱となった。
 
 その異言合唱の最中、牧師はスタッフの一人一人に手を置いて回った。「目覚めよ!」とか「ウェイクアップ!」とかイロイロ言っている。そして祈られたスタッフの一人が倒れると、それに続くように皆バタバタ と倒れ出した。そんなこんなで会場はいつもの祈りのミーティングみたいな熱気に包まれ、窓が曇る。
 全部終わったのは、祈り出してから1時間ほど経ってからだった。

「よし、これが教会の目覚めだ。人間は皆堕落するものだから、たえず祈って見張っていなければダメだ。だから身を引き締めろと私は言っているんだ」
 溝田牧師がそう締めくくる。
 そこで手が挙がった。「先生、質問なんですが」
 全員の目がその質問者に注がれた。例によってタタカイ兄弟である。
「何だね」と牧師。
「祈って見張るのはわかりますが、じゃあ先生のことは誰が見張るのですか?」
 その一言に、祈り終って脱力していたスタッフらの間に緊張が走った。キマジメくんにもその変化がはっきりわかった。溝田牧師はフンと鼻を鳴らし、タタカイ兄弟を見返した。
「私には海外のメンターが大勢いる。彼らが私を霊的に見張ってくれているから心配ない」と牧師。「そんなことよりタタカイ兄弟、君のその反抗的な霊性は、今日の聖会で癒される必要があるな。君のために、私が特別に祈ることにしよう」
「ありがとうございます」タタカイ兄弟はそれだけ言うと、会堂から出て行った。
 溝田牧師はかぶりを振る。「彼はまだ若いからな。何もわかっていないんだ」そして気を取り直したように、「さあみんな、最後の準備に取りかかてくれ。ミュージックチーム、もうリハーサル始められるのか?」
 言われたミュージックチームの若者たちが緊張の面持ちでハイと返事をした。キマジメくんはスクリーンのことで何か言われるかと思ったけれど、とりあえず何もなかった。聖会開始まであと2時間を切っていた。(続く)
 
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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
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