2014年12月18日木曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第50話

 それからキマジメくんは毎日、自分のyoutube動画を繰り返し再生し続けた。というのも初めの1週間で視聴回数700回を偽造してしまったからだ。その後も第三者から視聴される回数は低迷し、1日10回にも満ちていない。そのまま放置すれば、視聴回数の激減を指摘され、理由を問い詰められてしまうかもしれない。だから1週間で少なくとも500回くらい視聴されたことになるよう、数字を調整しなければならなかった。

 自分が蒔いた種とはいえ、むなしい作業だった。キマジメくんはロボットのようにパソコンの前に座り、ひたすら同じ操作を繰り返した。
 もともとは、ノルマ1000回を突き付けられたのが原因だった。それを達成できず叱責されるかと思うと、偽造でも何でもせざるを得なかったのだ。もちろん偽造は悪いことで、良心が咎められる。けれど真っ赤な顔の溝田牧師に怒鳴りつけられるのを想像しただけで、居ても立ってもいられなくなってしまう。
「主よ、お許し下さい」
 キマジメくんは時折そんなことを呟きながら、作業を続けた。

 それからの何週間かは何事もなかった。
 ミーティングは毎週あったけれど、各担当者の準備は滞りなく進んでおり、殊更問題とされることもなかった。溝田牧師もミーティングを早々に切り上げて、出掛けるようになった。サトリコ姉妹を連れて車に乗り込むところを、キマジメくんは何度か見かけている。何の用事か聞いていないけれど、たぶん奉仕なのだろう。
 
 さて、ついに『メボ・ルンド聖会』の前日になった。朝から教会を上げて準備である。
 まず全員で教会全体の掃除をし、そこから会場セッティング、食材の買い出し、チラシ配りなどに分かれた。午後になって溝田牧師が現れ、会場をあちこち回り、「ここもっと掃除して」とか「照明の角度はこう」とか「テーブルの配置はこう」とかイロイロ指図しだした。奉仕者たちは言われる通り動いた。
 キマジメくんは当日スクリーンに映すパワーポイントの仕上げに入っていた。そこにも溝田牧師がやって来て、「全部初めから見せてみて」と言う。キマジメくんはプログラムに沿って画面を表示した。全部終わると、牧師が眉間にシワを寄せつつ言った。「じゃ、メモして。修正点を言うから。まず初めの画像だけど・・・」
 という訳で無数の修正点を言いつけられ、キマジメくんはほぼ一からやり直しの作業を始めることになった。

 ここでキマジメくんのために補足しておくと、パワーポイントはすでに1週間前に準備できていて、牧師の確認ももらっていた。今日は細かいところをチェックしていただけだった。そこへ牧師がやって来て、一度オッケーしたものをアレコレ変えろと言い出した訳だ。
 それでもキマジメくんは従順に作業を続けた。「神様は生きて働いておられるから、その時々で御声を聞かなければダメだ」と牧師に言われたからだ。

 午後になり、溝田牧師が車でメボ・ルンド師を迎えに行った。ルンド師は成田空港に午後到着予定とのこと。「メボ・ルンド先生が来られたら、皆粗相のないように」牧師に怖い顔でそう言われて、皆緊張気味に返事をした。

 それから2時間程して、牧師が帰ってきた。着くなり、運転席で満面の笑みを浮かべている。降りてきたサトリコ姉妹が急いで後部ドアを開けると、中から長身のアメリカ人が出てきた。ポスターで何度も見た顔、メボ・ルンド師本人である。白人とインディアンの混血らしいが、後者の血が強いようだ。インディアンと言った方がシックリくる。
 牧師も降りてきて、何やら話している。そこに居合わせた奉仕者らは直立不動、最高の笑みである。キマジメくんも皆に倣って立っていた。
 溝田牧師はさっそくメボ・ルンド師をミーティングルームに迎えて、歓談し始める。ルンド師は紳士的な物腰で、穏やかな口調で話す人だった。奉仕者の一人一人にも丁寧にお辞儀していた。対する溝田牧師は、ちょうど得意先を接待する営業職みたいな雰囲気である。大きな声で笑い、大袈裟に反応し、会話が途切れないようにしゃべり続けている。キマジメくんは就職したことがないし、営業職についてほとんど何も知らないけれど、テレビなんかで見る典型的な営業マンなら知っている。それとそっくりだ。
 さて、そこへ軽食係の姉妹がお盆を持ってやって来て、お茶とお菓子をテーブルに置いた。反射的にお礼を言った溝田牧師だったけれど、すぐに口調が変わった。
「何これ? これだけ?」
「は、はい?」と姉妹。
「ちょっとちょっと、ルンド師は空港から何も食べてないんだよ? こんなんで足りる訳ないじゃない。ちょっと考えればわかるだろう。何かないの、軽食?」
「でもあれは、明日の・・・」
「明日のはまた買ってくればいいんだよ!」溝田牧師が怒鳴る。「臨機応変に考えなさい! 今ここに空腹の旅人がいるんだよ! 聖書はもてなすように言っているだろうが! なぜそんなこともわからないんだ!」
「す、すみません!」
 姉妹は慌てて奥に駆け出す。牧師は「まったく」と一つ呟くと、また急に笑顔に戻ってルンド師の方を向いた。「ソーリーソーリー・・・」
 キマジメくんはその一部始終を見て姉妹のことを気の毒に思ったけれど、どうすることもできない。ルンド師はと言うと、何も気に留めた様子もなく牧師と話している。自分もああいう風に怒鳴られないように、自分の仕事はしっかりやらないと、とキマジメくんは思った。そしてまたパワーポイントの修正作業に戻った。明日の聖会が無事に終わってくれることを願いながら。(続く)

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この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
この小説は不定期連載です。
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