2014年12月11日木曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第49話

 土曜の夜。
 キマジメくんはディスプレイを見つめたまま、頭を掻いている。youtubeにアップした動画の視聴回数は、さっきようやく100に達したところだった。何度更新ボタンを押しても、ほとんど変わらない。
 
「メボ・ルンド聖会」の紹介動画を完成させ、youtubeにアップするまでは問題なかった。関係のある教会やクリスチャンの知り合いにメールして、動画の紹介もしてみた。そのせいか初めの2、3日で視聴回数は80回に達した。けれどそこで止まってしまった。あとは1日数回ずつ増えるだけで、約1週間たった今日、ようやく100回に達したのだった。
 
 素人が初めて作った映像で、しかもクリスチャン人口の少ない日本でキリスト教系の内容な訳だから、誰からも見向きされない可能性が高いのはわかっていた。逆にそう考えると、1週間で100回というのは健闘した方かもしれない。けれど溝田牧師から課せられた視聴回数1000回というノルマには程遠い。これが800とか900とかだったら「惜しかった」と言ってもらえるかもしれないけれど、100回じゃ何を言われるかわからない。
 かと言ってこれ以上やりようがない。映像を作り直す時間はないし、広報しようにもアテがない。一度、キリスト教系のHPやブログの投稿欄に片っ端からリンクを貼ろうかとも思ったけれど、同じことをしてヒンシュクをかっている人がいるのを見て、思い止まった。クリスチャンとして、マナーは守らなければならない。
 
 そういう風にイロイロ考えていたのだけれど、堂々巡りするだけで、何の行動にも結び付かなかった。
 明日は日曜で、礼拝後にまた「メボ・ルンド聖会」のミーティングがある。皆の前でyoutube視聴回数の報告をしなければならないのだけれど、そこで「100回でした」と言う自分と、それを聞く溝田牧師の顔とを想像すると、居ても立ってもいられなくなる。何とかして、褒められないまでも、叱られない程度の結果にできないものだろうか。
 
 あるいは正直に、ありのままを言えばいいのかもしれない。努力しましたが100回でした、と。けれどそれはそれで、溝田牧師の答えが容易に想像できる。「努力が足りない」「信仰が足りない」「やり抜こうという意思が足りない」「主のために命を懸けていない」・・・
 おそらくそんな答えが飛んでくる気がする。
 
 じゃあどうするか・・・。
 さっきからそこで、思考が止まるのだった。そしてyoutubeの画面を更新して視聴回数を確認し、何も変わっていないのを知り、また初めから考える。その繰り返しだった。実は策はあった。けれど実行するのがためらわれた。
 しかしそうこうしているうちに午前0時になり、1時になり、2時になった。非常に眠い。しかし明日のミーティングのことを考えると、否応なく目が冴えるのだ。
「もうどうにもなりません・・・」
 キマジメくんは祈った。「異言」で祈り出した。主が助けて下さる。そう信じる以外ない。そうしてしばらく祈ってから、もう一度画面を更新してみた。視聴回数、101回。
 
 もうやるしかない。キマジメくんはそれ以上何も考えないことにして、自分がアップした「メボ・ルンド聖会」紹介映像の再生ボタンを押した。約2分たって映像が終わると、また再生した。そうやって何度も再生を繰り返した。朝まで繰り返せば、どれくらい視聴回数を稼げるだろうか。もはや計算する気にもなれなかった。
 
 翌朝目覚めると、キマジメくんは身支度をしながら、また教会に向かって自転車をこぎながら、そして礼拝しながら、マメにスマホをいじって動画の再生を続けた。教会のパソコンも使って同時再生もした。ミーティングが始まるギリギリまで続けた。そしてミーティングの時間になった。
 
「はい、じゃあまた各担当者、報告して」
 溝田牧師がソファにふんぞり返って言う。すでに「異言」の祈りもハレルヤ三唱も終わっている。また端から順番にスタッフの報告が始まり、キマジメくんの番になった。キマジメくんは1週間かけて手直ししたHPをスクリーンに映し出し、変更箇所を説明した。それからyoutubeの画面に切り替えて、例の動画の視聴回数を示した。
「1週間で700回です・・・」
 おおぉ、という何とも言えないどよめきが起こった。それがどういう意味かキマジメくんにはわからない。一晩で急に回数が増えたことに、誰か気づいているかもしれない。心拍数が上がるのが自分でわかった。恐る恐る牧師の顔を見る。すると、その顔は予想に反して笑顔だった。
「へえ、そんなに行ったんだ。すごいじゃん。私の予想じゃ、せいぜい100か200ってとこだったけど」と溝田牧師。
「はい?」
「ご苦労さん、キマジメくん。じゃあ本番までに、もっと視聴回数が伸びるかもね。楽しみだ。じゃ、次の人」
「でもノルマは・・・」
 そう言いかけたキマジメくんの言葉は、次のスタッフの声にかき消されて、誰の耳にも届かなかった。(続く)
 
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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
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