2014年10月12日日曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第43話

「タタカイ兄弟が遅れているけれど仕方ない。ミーティングを始めよう」
 溝田牧師が言う。「じゃ初めに祈ろうか。みんな、目を閉じて」
 一同、頭を垂れて目を閉じる。キマジメくんもそれに倣った。
「はい、じゃ誰か示されてる人、自由に祈って」
 それきり、溝田牧師は黙りこむ。えっ・・・、という空気がスタッフ間に流れるのを、キマジメくんは感じた。けれど誰かが咳払いを一つして、祈りだした。一番年長の兄弟だった。
 兄弟は教会の祝福とか、神の導きとか、そういう当たり障りのないことを流暢に祈った。「示されて」祈ったのかどうかよくわからない。
 
 その祈りが終わって皆で「アーメン」と言うと、キマジメくんは目を開けた。けれど牧師をはじめスタッフ全員が、まだ同じ姿勢で目を閉じていた。そしてそのまま時間が流れた。キマジメくんは何が何だかわからないけれど、再び目を閉じた。そこで牧師が声を上げた。
「ほら、示されている人、どんどん祈って」苛立っているようだ。「祈りを重ねることで霊性を引き上げるんだよ。君たち、示されてるのはそれだけなのか?」
 すかさず別の兄弟が祈りだした。若干早口で、やはり教会の祝福とか、神の導きとか、聖霊の力の現れとか、さっきとあまり変わらないことを祈った。けれど「アーメン」の掛け声は大きくなり、場は次第に盛り上がっていく。
 続いて別の姉妹が祈り、また別の兄弟が祈った。その頃には皆、「異言」でも祈っている。
 最後はサトリコ姉妹が祈りの声を上げた。彼女の声は大きくてよく通る。耳触りも良い。その声が周囲の「異言の祈り」にのって、「この国にリバイバルを!」とか、「天国がこの地に侵入するように!」とか、壮大なことを祈る。みんな熱狂して、「アーメン!」とか「そうです!」とか叫んだ。もはやミーティングというより、祈り会だ。
 
 そんなこんなで、祈りは30分ほど続いた。終わると皆で「ハレルヤ」三唱し、互いにハグし合う。溝田牧師も満足そうに言う。「こうやって霊性が上がったところでミーティングを始めるのがいいんだよ。長い祈りなんか無駄だという意見もあるけれど、祈りによって霊性が高まり、より高次的、効率的になるんだ」
 という訳でミーティングが始まる。議題は今度の伝道集会についてだった。集会の意義とか、目的とか、それがいかに必要か、牧師は滔々と語る。スタッフらは熱心にメモを取っている。キマジメくんもそれに倣い、スマホでメモと取る。
 その時会堂のドアが開いた。「遅れてすみません」
 タタカイ兄弟だった。
 牧師の顔つきが変わった。「君ねえ、どうしたんだ? ミーティングに遅れるなんて?」
「す、すみません」
「どうしたんだと聞いているんだよ!」
「いえ・・・、その・・・、ミーティングの時間を間違えてました。すみません」
 ハッ、と牧師は溜息をつく。「あのねえ、小学生が登校時間を間違えるなんてことがあるか? ないよな? みな時間を守っているんだよ。これが企業でのプレゼンだったらどうなる? プレゼンの内容がいくら素晴らしくても、時間に遅れたら、それだけで失敗だ。違うか?」
 タタカイ兄弟は頷く。
「どうなんだよ!?」と牧師。「何とか言え!」
「はい!」とタタカイ兄弟。「ちがくありません・・・」
「まったく、こういう個人のミスで、教会全体が止まってしまうんだよ」溝田牧師は、今度は全員に向けて話しだす。皆神妙な顔になって、ハイと言う。
「我らの神様は生きているんだよ。そして、今も働いておられる。教会は神様の最大の武器だから、神様は私たちを大いに用いられる。けれどその私たちに準備ができていなかったら、神様は私たちを用いることができない。そうしたら、神様の働きはどうなる? 止まってしまうよな。そうだとしたら私たちの責任だ」
 そしてまた、タタカイ兄弟に目を向ける。「今こうしている間にも、滅びゆく魂がある。私たちの働きがストップすることで、救える魂も救えなくなってしまう。その責任は重い」
 タタカイ兄弟はもはや声も出ない。うつむいて頷くだけだ。
 何もそこまで言わなくても、とキマジメくんは思った。けれど、そんなこと言えるはずもない。遅刻したのが悪いのは間違いない。
 これが神様の厳しさか、とキマジメくんは思った。天地を創られた神様にお仕えする訳だから、これくらい当然かもしれない。(続く)
 
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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
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