2014年9月10日水曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第41話

 帰り道、キマジメくんは「異言」で祈りながら自転車を走らせた。
 といってもほとんど口を動かさず、声も出していないから、誰にも気づかれる心配はない。日常生活を送りながら祈ることができる、なんてスゴイことだ、この祈りこそ、まさに神の奥義だ。キマジメくんはそう思った。
 もっともララララ言っているだけなので、何を祈っているのか自分ではわからない。けれど、霊において神と交わっているからそれでいいのだ。キマジメくんは坂道を勢いよく滑走した。

 部屋に入ると、さっそく実家に電話した。何度目かのコールで母が出た。キマジメくんは要件だけを言った。
「大学辞めて働くことにしたから。今までありがとう」
 そして切った。母は何か言いかけた。けれど、その声は受話器の電源とともに消えてなくなった。そして部屋に静寂が戻った。
 これでいいのだ。キマジメくんは思った。霊的なことを説明したって母にはどうせわからない。頑なに反対されるだけだ。とにかく自分は真理を知らされたのだから、それに従って歩まねばならない。そして今は神様の為に、肉親をも捨てなければならない。これは溝田牧師が言うように、信仰の戦いなのだ。
 そうやって電話を切ると、キマジメくんはまた「異言」で祈った。4畳半の部屋を歩き回りながら(すぐに1周してしまうのだが)、次に何をすべきかと考えた。神様は自分の思いを読み取られるお方だから、きっとこの「異言」の祈りを通して、語って下さるはずだ。
 すると電話が鳴った。ナンバーディスプレイではないけれど、母からだとすぐにわかった。厳密には違う可能性もあるけれど、タイミングとしては母からに違いない。
 どうしよう。
 母が何と言うか、だいたい想像がついた。あんた、いったい何考えてるの。勝手に一人で決めて。一度話し合うって決めてたでしょ。なんでそんな一方的な話になるのよ。だいたい・・・。
「ダメだ」
 キマジメくんは声に出した。やはり、母には何を言ってもダメだ。聖霊のバプテスマで特別な力を受けたこととか、牧師の按手で「切り開く賜物」を受け取ったこととか、そういう霊的な話をしたところで、平行線になるだけだ。
 電話が鳴り響く中、またキマジメくんは「異言」で祈った。電話の音量に負けない大声で祈った。そのうち、これは敵の攻撃ではないか、と思い至った。きっとそうだ、自分が特別な力を受けたから、敵が妬んで攻撃を仕掛けてきたのだ。
「イエスの御名によって、サタンよ退け! 退け!」
 と、キマジメくんは電話機に向かって霊的戦いを始めた(口調は溝田牧師を真似てみた)。
 すると、電話が鳴りやんだ。部屋はウソのように静まり返った。
「よし、勝利した」
 そう言ってまた部屋の中をゆっくり歩いていると(やはり狭いのですぐ1周してしまうのだが)、今度は携帯電話が鳴り出した。着信表示は、やはり母だった。
「イエスの御名によって・・・」
 今度は携帯電話に向かって戦い始めた。「退け」と何度か命じていると、ついに鳴りやんだ。と思ったら留守番電話モードになっていた。
「主よ、どうぞ勝利をもたらして下さい」
 眉間にシワを寄せてそう祈っていると(溝田牧師はよくそうやって祈っている)、またまた固定電話が鳴った。母からに違いない。
「この戦い、主にあって負けられない!」キマジメくんは腕を振り上げた。「主の御名によって、サタンよ退け! サタンよ退け!」
 そう叫びながら腕を振り下ろす。と、勢いあまって指が受話器にぶつかってしまった。受話器が狭い室内を飛んだ。けれど運よくソファの上に落ちた。
「もしもし?」
 受話器から小さな声が聞こえてくる。「キマジメくん?」
 慌てて受話器に飛びついた。「もしもし」
「ああキマジメくん、今大丈夫かい?」
 溝田牧師だった。(続く)

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・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
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