2014年7月18日金曜日

キマジメくんのクリスチャン生活 第38話

「愛する兄弟姉妹! 今日も神様を賛美して礼拝を始めましょう!」
 満面の笑顔の司会者が、元気に叫ぶ。そしてドラムのカウントから、楽器が大きな音で演奏を始めた。会衆から手拍子が起こり、口笛が起こり、ハレルヤとかアーメンとかいう声が起こる。礼拝は初めからお祭り状態である。

 今日の「リハーサル」で、溝田牧師が何度も言っていた。「賛美の出だしが一番重要だ。最初から、マックスで盛り上がっていかなければいけない。そうでないと、打ち破れないから」
 という訳で、賛美奉仕の若者らは、出だしを何度も練習させられていた。司会者は最初の一言から笑顔で、大きな声で、明るく会衆に語りかけろ、楽器は一斉に最大音量で始めろ、タイミングを狂わせるな、とか。若者らは緊張した様子で、しかし言われた通りにしようと努力していた。溝田牧師はそんな彼らに容赦ない叱責を浴びせ、うまくできるまで、何度も繰り返させた。キマジメくんはさすがに見ていられなくなって、トイレに行く振りをして会堂を出た。
 若者たちの従順と献身は大したものだった。いつも頭が下がる。さほど年齢は変わらないけれど、自分はあんな叱責に耐えられる自信がない。泣き出してしまうかもしれない。

 そんな若者らの苦労を当然知らない会衆は、お祭り気分で賛美を始める。飛び跳ねたり、踊ったり、手拍子を打ったり。キマジメくんはいつもなら同じようにするのだけれど、若者らが叱責される光景が頭から離れず、体が動かなかった。
 同時に、これではダメだ、ちゃんと神様を礼拝しなければダメだ、と思う自分もいる。皆が飛び跳ねて歌っている中、キマジメくんは一人、うつむいて悔い改めの祈りをした。そうしなければいけない気がした。

 一通り賛美が終わり、挨拶の時間も終わって、熱気にのぼせた会衆が席についた。すぐに溝田牧師が講壇に立った。「皆さん、今日は特別に、皆さんと祈る時間を持ちたいと思います」
 アーメン、という声が会衆から起こる。
「実は今朝、主からの強い語りかけがありました」牧師は続ける。「聖霊のバプテスマの為に祈れ、という語りかけです。この教会にはまだ聖霊のバプテスマを受けておられない兄弟姉妹がいると思います。その兄弟姉妹のために今、祈りたいと思います。聖霊のバプテスマを求めておられる方がいますか? もしいたら、どうぞ前に出てきて下さい」
 キマジメくんは躊躇したけれど、礼拝前に牧師にお願いした手前、出て行かない訳にはいかなかった。恐る恐る立った。そしてそろりそろりと、黒子のように前に出た。全員の注目が自分に集まっているのを感じる。
「ハレルヤ、主は真実です」キマジメくんを見て牧師は言う。「やはり語られた通り、バプテスマを求める兄弟を主は備えておられました」
 アーメン、という声がまた起こる。
「ではこのキマジメ兄弟のために祈りましょう。キマジメ兄弟、あなたは聖霊のバプテスマを求めますか?」
 マイクを差し向けられた。キマジメくんは「はい」とだけ答えた。牧師がハレルヤと言うと、会衆からもアーメンが起こる。
「あなたの信仰の通り、今日、聖霊のバプテスマが与えられるでしょう。では聖霊のバプテスマを既に受けていて、そのしるしとして異言が与えられている兄弟姉妹、立って下さい。キマジメ兄弟に聖霊様が下るように、助祷をお願いします」
 背後で大勢が立つのがわかった。そして一斉に「異言」が始まった。会衆のほとんどが立ったと思われる。皆が発する「異言」が波となって、キマジメくんを飲みこんだ。キマジメくんは体が震え、鳥肌が立った。
「ではキマジメ兄弟」牧師が耳元で言う。「体を楽にして、聖霊様に明け渡しなさい。両手を挙げて、聖霊様に心を委ねなさい。そして唇を解放してあげなさい。唇がしゃべろうとすることを、妨げてはいけません」
「はい」キマジメくんは言われた通りにした。
 牧師はさらに続ける。「異言は最初は未熟なものです。赤ん坊の言葉が未熟なのと同じです。赤ん坊が言葉を覚えるプロセスを知っていますか? 大人の真似をするのです。異言も同じです。皆の異言を聞いて、真似をしてみるのです。初めはそれでいいのです。さあ、唇を楽にして、舌に自由に語らせてあげなさい」
「はい」と返事をして、キマジメくんは腹と唇に意識を集中した。聖霊様、満たして下さい、と心の中で祈った。
 背後で会衆が祈る「異言」にも意識を向けた。それぞれに違う「異言」のようだけれど、同じような気もする。「ラララ」とか「ダダダ」とか「バラバラバラ」とか、同じ音の繰り返しが多い。「異言」は自分がまったくしゃべれない外国語だったと聖書に書いてある。ではこの「ラララ」とかも、どこかの国の言葉なのだろうか
 そういうことを考えると、なかなか出てこない。真似をすればいいと言われたけれど、何をどう真似たらいいのかわからない。そうこうしているうちに、時間だけが過ぎていく。
 溝田牧師が、キマジメくんの腹を何度か押した。「ほら、腹から出すんだ! 異言よ溢れよ! 聖霊充満!」
 そうやって押されると、余計に出てこない気がした。皆を祈らせているというプレッシャーもある。どうしよう、どうしよう、と焦りだした。すると余計に出てこない。
 しばらくすると、会衆の祈りが弱まった。疲れたようだ。溝田牧師が手を挙げた。
「皆さん、お祈り感謝します。キマジメ兄弟、どうですか? 何か感じましたか?」
 またマイクを差し向けられた。「あ、はい」
「何を感じましたか?」
「あの」キマジメくんは少し考えてから、「体が震えました。熱いものを感じました」
「ハレルヤ」牧師は天を仰ぐ。「皆さん、キマジメ兄弟に聖霊様が臨まれました」
 おおっ、という声が会衆から起こる。
「ただ、まだ異言を伴うところまで達していないようです。さらに聖霊様で充満する必要があります。キマジメ兄弟、今後も引き続き、聖霊様を求めて祈るように。今、あなたは聖霊様に満たされていますから、今がチャンスです」
 そう締めくくられて、キマジメくんは席に戻った。今のはいったい何だったんだろうか、と思う反面、自分の内側に、何か熱いものがあるようにも感じる。これが聖霊様の臨在なのだろうか。キマジメくんは歩いたり体を動かしたりしてはいけない気がした。もし動いたら、聖霊様の臨在が崩れてしまいそうな気がしたからだ。(続く)

――――――――――――――――――――――――――――――――
・この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・この小説は不定期連載です。
――――――――――――――――――――――――――――――――

0 件のコメント:

コメントを投稿